気まぐれで更新する私小説的原著解説。
1. 京都大学時代(1~33)
2. 名古屋大学時代(34~66)
3. 岡山大学時代(67~)
66. Antioxidative catechol lignans converted from sesamin and sesaminol triglucoside by culturing with Aspergillus.
Miyake, Y., Fukumoto, S., Okada, M., Sakaida, K., Nakamura, Y., Osawa, T.
J. Agric. Food Chem., 53(1), 22-27 (2005).
ゴマは紀元前3000年頃にはすでにナイル川流域で栽培され、その後世界の重要な油脂資荷作物として各地域に広まった。日本でもゴマ油は高品質であるため古くから珍重されたが、その要因として、不飽和脂肪酸を多く含んでいるにもかかわらず、長期間貯蔵しても高い発芽率を保つ点や、機能性を有するサプリメント的食品として古くから使用されてきた点が挙げられる。すなわち、ゴマにはその他の油脂資荷作物にはない特異な成分が含まれ、品質や健康に寄与していることが経験的に理解されていたのである。ゴマの効能は、紀元前3世紀頃書かれた「神農本草経」にすでに記されている。ゴマの機能性食品としてのポテンシャルは、そのユニークな化学組成、化学特性にあることが近年再認識されており、リグナンが中心的な役割を果たしている。植物界に幅広く存在しているリグナンは、特に木材組織の高分子構造体であるリグニンの最小単位としてよく知られているだけでなく、生薬や漢方薬などの薬理成分としても著名である。近年最も機能性の研究が進んでいるのがゴマリグナンである。ゴマ種子中のリグナンは、脂溶性のセサミン、セサモリンと水溶性のセサミノール配糖体が量的に大部分を占めている。特にセサミン、セサモリンは含量が多く、いずれもゴマ種子中に0.3~0.5%という高含量で存在する。
セサミノール配糖体を高含有するゴマ脱脂粕は、高コレステロール負荷したウサギの動脈硬化発症を有意に低下させ、新規機能性食品素材の候補として有望であることから、我々の共同研究グループは応用に向けての試みを食品化学的な見地から続けてきた。未利用資源の素材はその嗜好性(味、香、色など)や消化性の悪さから、応用の可能性を大きく狭めているものが多い。また、セサミノール配糖体の生体利用率はそれほど高くないことが推察され、有効利用するためには改善の余地が残されていた。
そこで注目したのが、食の歴史上最も重要な発見の一つである「発酵」である。食品と微生物の関わりは古く、まだ微生物の存在が知られていない時代から、ビール、ワイン、清酒、蒸留酒等の酒類、ヨーグルト、チーズ等の乳製品、しょう油、みそ等の調味料として、主に食品の保存を目的に発酵技術が利用されてきた。近代になって、その発酵の主役である微生物が次々に分離され、その発酵や酵素の仕組みが解明された結果、発酵食品やアミノ酸発酵といった食品に関連する分野だけでなく、抗生物質をはじめとする有用化学物質生産の新たな手法として、医学や化学の発展にも役立ってきた。近年、盛んに行われている食品の機能性に関する研究においても、食品加工における微生物発酵の新たな合目的性として、従来からの腐敗の防止、保存性の向上、嗜好性の改善に加えて、機能性の向上が明らかとなり、注目を集めつつある。これは、単なる「発酵」という伝統的な食品製造技術の再認識にとどまることなく、科学的根拠に基づいた、安全で高機能性を有する新たな機能性発酵食品の開発を目指したものである。
前置きが長くなったが、ゴマ脱脂粕に関しても、発酵を利用した新しい機能性食品素材の開発のための基礎的知見を得ることを目的として、嗜好性、吸収性の改善や抗酸化活性の向上を指標に、発酵に利用する微生物の選抜、新規機能成分の探索及びその精製、構造決定を行ってきた。本論文では、セサミンとセサミノール配糖体を各種麹菌にて発酵を施し、抗酸化活性の変動と代謝産物の変動を解析した。その結果、発酵前のセサミンやセサミノール配糖体はほとんど抗酸化作用を示さないにもかかわらず、発酵7日目付近からすべての菌種で抗酸化活性の上昇が確認できた。次に、新規代謝産物の探索を行ったところ、セサミン、セサミノール配糖体のピークは培養後すぐに消失し、新たな代謝物の生成を示す複数のピークが観察された。このピークを単離精製し、NMRなど各種機器分析に供した結果、メチレンジオキシ基が開裂して、カテコール構造となったセサミン2,6-ジカテコール及びセサミノール6-カテコールとそれらの立体異性体の生成が明らかとなった。このカテコール化という化学的変換は、セサミンの生体内での抗酸化作用発現に重要な肝臓における代謝と同様の反応であり、生体内代謝物を麹菌発酵処理によって人工的に調整する方法を初めて見出したという点で、大変興味深い。また、これらカテコール型リグナンの抗酸化活性について検討したところ、セサミノール6-カテコールが最も強い抗酸化活性を示し、セサミノールの約2倍、α‐トコフェロールの約3倍の活性を示した。特にゴマリグナ配糖体は吸収率という点ではそれほど優れていないことが想定されていたが、発酵処理によって、より脂溶性が高く、それ自身が抗酸化活性を示すアグリコン、セサミノールへの変換が効率よく行われることを本研究で明らかにした。この一連の研究は、10円/1 kgでも引き取り手がないといわれるゴマ脱脂粕を糸状菌にて発酵することで、高機能性を付与できる可能性を示しており、未利用資源の有効利用という点においても、極めて重要な基礎的データであると考えている。発酵により調製可能なこれらを経口摂取することで、様々な生理作用がより有効的に発揮されるのか、或いは吸収率が大きく改善されるのかについての最終的な結論は、これからの研究を待たなければならないが、それらリグナン代謝産物の物性、反応性を考慮すれば、前駆体であるセサミノール配糖体などよりも効率よく吸収され、抗酸化作用を発揮するのではないかとの期待が膨らむ。
*1 ゴマリグナンに関する基本的情報や研究の詳細については以下の書籍を参照した:ゴマリグナン. 中村宜督, 大澤俊彦, 機能性食品の事典, 朝倉書店, pp.166-174 (2007).
*2 本研究は、大澤先生の主導のもと、名古屋三女の卒論のテーマとして行われた。実験の立ち上げの際に、共同研究先をじっくり見学させて頂いたことを懐かしく思い出す。ラクロス部出身の三女は公私ともに明朗かつ堅実なキャラクターで活躍したが、学生同士の間では違った評価かもしれない。将来のことを考えれば修士でも食品のテーマに携わって欲しかったが、過酸化脂質グループに移動して研究を続けた。その後、おそらく卒論研究の縁もあり、高倍率を乗り越えて共同研究先に就職し、結婚出産を経て現在も活躍中(?)のはず。2012年11月現在、二度目の産休中らしい(JSoFF@静岡にて某氏談)。
(名古屋大学、ポッカコーポレーションとの共同研究)
65. Benzyl isothiocyanate inhibits oxidative stress in mouse skin: Involvement of attenuation of leukocyte infiltration.
Nakamura, Y., Miyoshi, N., Takabayashi, S., Osawa, T.
BioFactors, 21(1-4), 255-257 (2004).
本報も、ICoFF2003のプロシーディングに掲載されたArticle Addendum的な論文。文献59の続報である。前報において、BITCによる酸化ストレス抑制効果が、白血球のNADPH oxidase阻害作用だけでなく、白血球浸潤抑制効果も寄与することを明らかにしていたが、その機構は不明であった。そこで、さらなる組織学的研究を行った結果、BITC処理は浮腫形成をほとんど阻害できないにも関わらず、TPAによる過酸化水素生成を大きく低下させた。さらに、BITCはマウス皮下組織中のTUNEL陽性指数を上昇させたことから、BITCは炎症部位に浸潤した細胞の消失を促進している可能性が示唆され、BITCによる抗炎症作用の新しいメカニズムを提案した。
(名古屋大学)
64. Benzyl isothiocyanate modifies expression of the G2/M arrest-related genes.
Miyoshi, N., Uchida, K., Osawa, T., Nakamura, Y.
BioFactors, 21(1-4), 23-26 (2004).
ICoFF2003のプロシーディングを兼ねたBioFactor誌の特集号にArticle Addendum的な論文を次報(65)とともに上奏した。内容的には文献58の続報であり、BITCによる細胞周期依存的な遺伝子発現を評価している。 ヒト前骨髄生白血病細胞HL-60において、BITCはG2/M期細胞に特異的にアポトーシスを誘導することを示してきたが、本論文ではBITCが細胞周 期停止に寄与するp21、GADD45、14-3-3σの遺伝子発現を上方調節し、逆に細胞周期の進行に寄与するcyclin群(A2, B1, E)、Cdk1/2を下方調節すること(data not shown)を示し、BITC処理によってS期後半からG2/M期細胞の割合が増加することと矛盾しなかった。以上の結果から、BITCはこれらの遺伝子 発現調節を介して細胞周期を調節することが示唆され、BITCは細胞周期停止(G1 arrest)した細胞よりも、細胞周期が進行している増殖性細胞に有効であるという続報(72)の研究につながっていった。
(名古屋大学)
63. Endogenous formation of novel halogenated 2'-deoxycytidine: Hypohalous acid-mediated DNA modification at the site of inflammation.
Kawai, Y., Morinaga, H., Kondo, H., Miyoshi, N., Nakamura, Y., Uchida, K., Osawa, T.
J. Biol. Chem., 279(49), 51241-51249 (2004).
白血球由来の活性種によるDNA損傷の発がんへの寄与が示唆されて久しい。白血球特異的なペルオキダーゼであるミエロペルオキシダーゼや好酸球ペルオキシダーゼは、過酸化水素とハロゲンイオンを基質として次亜ハロゲン酸の生成を触媒し、ハロゲン化反応を媒介する。これら白血球に由来する酸化剤は核酸中の塩基とも反応し、ハロゲン化物を生成することが示唆されていたが、炎症部位におけるDNA損傷が活性化した白血球に由来するものか確証は得られていなかった。この研究では、まず次亜ハロゲン酸修飾DNAを認識する新しい抗体(mAb2D3)を作成し、この抗体が次亜塩素酸/次亜臭素酸(HOCl/HOBr)修飾2-デオキシシチジン残基を認識することを確認した。HOCl処理オリゴヌクレオチドに対する免疫反応性は過剰なメチオニン処理で軽減したことから、抗体のエピトープはクロラミン様構造であることが示唆された。質量分析を組み合せた更なる解析から、mAb2D3のエピトープを最終的に新規物質であるN4,5-ジハロゲン化デオキシシチジンであると同定している。このジハロゲン化デオキシシチジンのin vivoでの生成は培養細胞系だけでなく、リポ多糖を投与した炎症モデルマウスの肺や肝細胞の核内においても免疫化学的に観察された。以上の結果は白血球由来酸化剤である次亜ハロゲン酸を介して、ハロゲン化DNA塩基が内因的に生成していることを強く示唆している。それ故、DNAのハロゲン化は炎症部位におけるDNAの酸化損傷の一つのメカニズムである。
筆頭著者との思い出も数知れず。研究(原著多数)は彼の性格を表すように熱く、実直そのものである。研究室でも長男、K博士と並んで一緒によく飲んだが、一番は彼が親友達と作った野球チーム(リンク参照)。彼はそのチームの終身名誉監督。学生中心のチームで入れ替わりが激しいのだが、10年以上もチームが存続発展しているのも彼の人徳のなせる技である。アニバーサリー紅白戦@ナゴヤドームは一生の思い出、またやりたい。かくいう彼は、博士課程を早期修了して、請われて徳島大学に赴任、助手(後に助教)、NIH留学、そして2011年春、准教授として出身研究室に、そして選手としてチームに戻り、故郷に錦を飾った。そういえば、結婚して引っ越した先(守山区小幡)が彼の実家の近所だった。
(名古屋大学)
62. Zerumbone, a tropical ginger sesquiterpene, activates phase II drug metabolizing enzymes.
Nakamura, Y., Yoshida, C., Murakami, A., Ohigashi, H., Osawa, T., Uchida, K.
FEBS Lett., 572(1-3), 245-250 (2004).
文献45、60の続報で、ゼルンボンの第2相薬物代謝酵素誘導作用とその分子機構を解析した論文。これまでの動物を用いた研究から大腸や皮膚でのがん予防効果が明らかとなり、その作用機構として発がん物質の代謝不活性化を担う第2相酵素誘導の寄与が示唆されていたが、ここでは正常肝由来細胞株RL34細胞を用いて詳細を検討している。RL34細胞へのゼルンボン処理は全GST酵素活性、GSTP1タンパク質発現を誘導したが、ゼルンボンの還元誘導体(α-フムレン、8-OH-α-フムレン)は不活性あった。これは既報の構造活性相関と同じ傾向を示し、第2相酵素誘導においてもゼルンボンのα,β不飽和カルボニル構造に起因する求電子性が重要な構造要因であることを明らかにした。ゼルンボンは、第2相酵素遺伝子上流に共通したARE配列に結合する転写因子Nrf2の核内移行を誘導し、ゼルンボンはNrf2/ARE依存性解毒機構の潜在的活性化剤であることが示唆された。Nrf2/AREに依存しているγGCS、GPx、HO-1の発現をゼルンボンが誘導したこともこの説を支持している。本論文ではさらに、このNrf2/ARE依存性解毒機構の活性化を介して、ゼルンボンが肝細胞での脂質過酸化を中和し、抗酸化剤として機能することを明らかにすることで、新しいがん予防のメカニズムを提唱するに至った。
名古屋次女は京都府立大学から進学してきた編入組で(長男の嫁と同期)、最初は色々戸惑ったようだが、論文のデータでもわかるように堅実な仕事振りと面倒見のよいお姉さん的な存在として活躍した。自宅生だったので研究以外の時間をあまり共有できなかったが、先日センター試験の監督をしている時に突然長男から連絡があり、それをきっかけにあるエピソードを思い出した。それは、センター試験の前の日だというのに、長男が下宿でみんなで飲んで遊ぶから、珍しく次女も来るから、というので出かけていったものの、思いのほか盛り上がり、結局みんな帰れなくなり、朝方まで起きていて、狭い下宿だったので最後は折り重なるように寝た。本当にヤバかったが奇跡的に目覚め(多分次女に起こしてもらった)、一度自分の下宿に帰ってスーツに着替え、ギリギリ試験会場に滑り込んだ。言うまでもなく、2日間の試験監督は本当に死ぬ思いだった2002年の1月だった。先日の長男の連絡は、また、これやりましょう、だった。
(名古屋大学、京都大学との共同研究)
61. Antimicrobial activities of diterpene dialdehydes, constituents from Myoga (Zingiber mioga Roscoe) and their quantitative analysis.
Abe, M., Ozawa, Y., Uda, Y., Yamada, F., Morimitsu, Y., Nakamura, Y., Osawa, T.
Biosci. Biotechnol. Biochem., 68(7), 1601-1604 (2004).
文献49、55の続報。ミョウガからの単離が初めてであったジテルペンアルデヒド化合物、辛味のあるアフラモジアール(本論文ではミョウガジアール)、無味のガラナールAとB、3種のバクテリア、酵母、カビに対する抗菌作用を検討した論文。グラム陽性菌や酵母に対してはミョウガジアールが比較的強い抗菌作用を示し、ガラナール類も抗菌性を示した。またこの報文では、ミョウガの部位による含量の差異についても検討しており、ミョウガジアールは蕾に最も多く含まれるのに対して、ガラナール類は葉や根茎の方に多いことが明らかとなった。
(高崎健康福祉大学、宇都宮大学、群馬県農業技術センター、お茶の水女子大学、名古屋大学との共同研究)
60. Zerumbone suppresses skin tumor initiation and promotion stages in mice.
Murakami, A., Tanaka, T., Lee, J.Y., Surh, Y.J., Kim, H.W., Kawabata, K., Nakamura, Y., Jiwajinda, S., Ohigashi, H.
Int. J. Cancer, 110(4), 481-490 (2004).
文献45の続報で、この後文献62のin vitro研究とも対をなすゼルンボンに関する報文。この研究以前には師匠のグループはゼルンボンの大腸がん細胞へのアポトーシス誘導作用や大腸腫瘍マーカーの抑制効果(参考文献)などを報告しているが、この研究ではマウス皮膚二段階化学発がん実験系におけるゼルンボンの抗イニシエーション(発がん物質による遺伝子の損傷過程)及び抗プロモーション作用を検討している。その結果、10倍モル量のゼルンボンをジメチルベンツ[a]アントラセン(DMBA、マウス皮膚発がん物質)塗布の24時間前に前処理することにより、腫瘍発生率、平均腫瘍個数ともに顕著に抑制した。一方、TPA(発がんプロモーター)塗布前に繰り返し前処理することにより、腫瘍個数と腫瘍直径を顕著に低減した。次に分子機構に関する研究を進め、ゼルンボンはマウス皮膚においてMn-SOD、GPx、GSTP1、NQO1などの抗酸化/第二相薬物代謝酵素群のmRNA発現を増加させる一方、逆に発がん物質の代謝活性化に寄与するCYP1A1、CYP1B1の発現を低下させることを明らかにした。さらに、ゼルンボンはTPAによるCOX-2発現やERKリン酸化の誘導を有意に抑制するとともに、マウス皮膚二段階炎症モデル(文献56など)において、priming、activationの両段階を阻害することで過酸化水素産生、浮腫形成、白血球浸潤、PCNA発現(細胞増殖、過形成マーカー)を抑制した。以上の結果は、ゼルンボンが、抗酸化/第二相薬物代謝酵素の誘導及び炎症関連シグナル伝達経路の阻害を介して、イニシエーション期、プロモーション期の両期で作用する化学予防剤として有望であることを示している。
この論文は、中心的役割を果たした学生がいたわけではなく、師匠がワントップの布陣の論文である(この頃からは珍しい形)。実に豪華な顔ぶれで、田中先生に引き続き、ソウル国立大学のSurh先生 (1)、現シンシナティの後輩(詳細は文献43参照)、そして今年故郷に錦を飾ったQ氏 (2) と並ばせて頂いた。
*1 今や韓国だけなくアジアのFood Factor研究を支える屋台骨となりつつある先生で、日本でもシンポジウムや招待講演に引っ張り凧だが、2009年秋に東大弥生講堂で並んで講演させて頂いた時は緊張した。後の懇親会で、ご挨拶した際に師匠の弟子だというと、大層喜んで下さり、お褒めの言葉を頂いたことは忘れられない。
*2 そもそも師匠の近畿大学時代の弟子で、修士から京大に来た頑張り屋。データに恵まれず苦労した時間帯もあったが、博士号取得後、徳島大学、神戸大学の著名な先生方の下で活躍し、2010年故郷に赴任した。2009年秋、彼の結婚披露宴は京都で行われたが、直ぐにでも食品機能に関するシンポジウムができそうな来賓席であった。現在新米パパとしても奮闘中である。
(京都大学、金沢医科大学、ソウル国立大学、名古屋大学、カセサート大学との共同研究)
59. Benzyl isothiocyanate inhibits excessive superoxide generation in inflammatory leukocytes: Implication for prevention against inflammation-related carcinogenesis.
Miyoshi, N., Takabayashi, S., Osawa, T., Nakamura, Y.
Carcinogenesis, 25(4), 567-575 (2004).
本研究では、BITCのマウス皮膚化学発がんに対する抑制効果と生体内抗酸化作用を評価しており、一つの区切りとなった論文。この時点では、BITCの生体内抗酸化作用を有するか否かについては、ほとんど検討されていなかったことから、この論文ではBITCの抗酸化作用を分化HL-60細胞系とマウス皮膚炎症二段階実験モデルにて検討した。その結果、BITCは酸化的バーストにおいて多量のスーパーオキシドを産生する白血球型NADPH oxidase(Nox2)の強力な(他のITCと比べて)阻害剤であり、求電子性を欠損したメチルチオカルバメート誘導体(BITC-OMe)は全く効果がないことを明らかにした。細胞内チオールブロッカーのマレイン酸ジエチルエステルの細胞への前処理はBITCの効果を増強する一方で、興味深いことに細胞内グルタチオン合成の基質であるN-アセチルシステインの前処理はBITCの効果を中和した(細胞内グルタチオン量が増え、抗酸化防御能が高まっているのに、活性酸素量は増加する結果となった)。この結果から、標的分子の反応性の高いSH基がBITCによる共有結合によって修飾を受け、活性酸素産生能が制御されているものと推察した。さらに、BITCはPKCβの膜移行を抑制しなかったが、基質消費を抑制したことから、恐らくシトクロムb558(gp91phox)の電子伝達系を修飾しているのではないかと考えている。マウス皮膚でもTPA誘発性過酸化水素産生をBITCは有意に抑制し、マウス皮膚でも求電子反応性依存的な生体内抗酸化物質として機能することを確認した。組織学的研究によりBITCの白血球浸潤抑制効果も明らかとなり、抗炎症物質として作用する可能性が示唆されたことから、最後にマウス皮膚化学発がん実験によりBITCの効果を検討した。その結果、BITCの前処理が皮膚化学発がんに対して有意な抑制効果を示し、BITCの炎症関連発がんに対する予防剤としての生物学的根拠を示すことができた。
これまでBITCの機能については、培養細胞を中心に評価していたが、自分の手でin vivoのデータを得ようと目論んでいた。名古屋九女(?、名古屋の弟子14人中11名が女性であった)の卒論のテーマとして開始したが、最初の実験で九女が投与量を1000倍間違え(いわゆるmmolミリモルとμmolマイクロモルの間違い)、その日の午後にはマウスが全滅したことも懐かしい。投稿後に、国際学会(新婚旅行を兼ねた曰く付きの)のミキサーでEditorに会い、論文の概要を説明すると「Make sense !」とお褒めの言葉を頂き、無性に嬉しかったのはそう、フランスのVichy(温泉やミネラルウォーター、化粧品で有名)であった。
(名古屋大学)
58. A link between benzyl isothiocyanate-induced cell cycle arrest and apoptosis: Involvement of mitogen-activated protein kinases in the Bcl-2 phosphorylation.
Miyoshi, N., Uchida, K., Osawa, T., Nakamura, Y.
Cancer Res., 64(6), 2134-2142 (2004).
本研究では、ベンジルイソチオシアネート(BITC)のアポトーシス誘導メカニズムについて追求し、BITCによる細胞周期調節作用とアポトーシス誘導をつなぐ分子群を同定した論文。ヒトT細胞性白血病細胞JurkatにBITCを曝露するとG2/M期細胞の蓄積とともにアポトーシスの誘導が観察されたが、PI-TUNEL二重染色法により、S期後半からG2/M期の細胞が選択的にアポトーシスへと誘導されることを明らかにした。そこで、ノコダゾールを用いて同調培養を行い、G2/M期に同調した細胞にBITCを処理すると、アポトーシスを起こした細胞の割合が有意に増加したことから、G2/M期細胞は他の周期の細胞に比べて、BITCに対する感受性が増加しているものと考えられた。次に、アポトーシスを誘導する濃度のBITCが、mitogen-activated protein kinase(MAPK)群のなかでも、extracellular signal-regulated kinase(ERK)には影響を与えず、c-Jun N-terminal kinase(JNK)とp38 MAPKを活性化することを確認したが、この活性化された2つのキナーゼ経路の阻害剤は有意にBITCによるアポトーシス誘導を阻害した。一方、p38 MAPK阻害剤によってのみ、不活性型であるリン酸化Cdc2やG2/M期細胞の蓄積が抑制されたことから、p38 MAPK経路がBITCによる細胞周期調節の主要な経路であることが示唆された。さらにMAPKの下流分子を探索したところ、Bcl-2のタンパク質量はBITC処理によって変化しないものの、リン酸化レベルが亢進することを見出し、このリン酸化の亢進はJNK経路の阻害剤で抑制されることも確認した。興味深いことに、G2/M期細胞ではBcl-2の自発的リン酸化が亢進し、BITC処理でさらに増強されること、Bcl-2のJNK依存的リン酸化はJurkatだけでなく、HL-60やHeLaでも見られたこと、Bcl-2はリン酸化することでBaxとの相互作用が低下し、アポトーシス誘導に機能することが明らかとなった。以上の結果から、リン酸化Bcl-2がBITCによるp38 MAPK依存性細胞周期調節とJNK依存性アポトーシス誘導の二つの現象をつなぐ鍵分子であると結論付けた。
小生の代名詞となりつつあるイソチオシアネートであるが、BITCのアポトーシス誘導作用に関する研究を引き続き行ってきたという点では文献44の続報といえる。しかし、名古屋長男のデビュー作であり、彼のD論の一つの大きな柱であるとともに、ITCの細胞周期調節とアポトーシスとの関連をはじめて見出した点では、それまでに報告されてきた多数の論文と一線を画している。また、BITCのような芳香族ITCとスルフォラファンのような脂肪族ITCでは分子標的や活性化される経路が異なることが最近指摘されつつあるが、この論文の貢献も多い(はず、だけど引用は少ない。。。涙)。本論文は、長男がひとりでこつこつとデータを溜めて、満を持して投稿(別の専門誌に)したが、編集者からの最初の返事はそっけないものであった。それまでにもITCに関する多くの論文が発表されており、自分達の書き方も宜しくなかったが、有意性が見えないという理由でrejectだった。そこで査読者のコメントを参考にしながら、データを加え、論理的な組立も再構築し直し、全面的に書き直して、雑誌のレベルを下げるのではなく、逆にアップグレードして投稿し直した。そうこうしている間に思い入れだけはどんどん強くなり、何としてでもいい雑誌に載せようと長男と意気込んでいたのを思い出す (1)。ここでも最初の返事は芳しくなかったが、抗がん剤が専門の編集者や査読者はどうも解釈を間違っているようなので、訂正すべき点はすべて訂正し、できる実験は丁寧にやり直し、我々の実験の組み方は遠回りかもしれないが、solidではないにしろ、結論をよりconvincingにしていると説明し、なのでもう一度審査して欲しい、と長文の手紙を書いた。半ば諦めていて、実際次に投稿する雑誌を物色していたが、次の手紙ではdata not shownのデータを示し、loading controlをきっちり取り直せば掲載してあげるよ、というポジティブな返事であった。本当に成功の秘訣は根気であること、成功は人を成長させることを思い知らされた。
長男とのエピソードは数知れないし、いっぺんにすべては思い出せないのでまた別の機会にするが、ひとつだけ。名古屋に赴任した頃の小生は日常生活でも標準語を使っていたが (2)、彼が進学してきて (3) 、隣りのデスクにすわってから、うまく標準語を操れなくなった、すなわち関西弁しか喋れなくなった。彼は本当にしつこい程の関西弁で (4)、それだけの付き合いがあったと想像するのは容易であるが、最近は講演でも注意しないと関西弁なまりがでてしまう。一長一短だとは思うが、後で恥ずかしい気持ちになることが多い。それは、自分が修士の頃に、師匠に学会発表の練習会で関西弁イントネーションを直されたのが、おそらく効いているようである。
*1 研究室の環境も上昇志向であったことはいうまでもない。
*2 信じては貰えないだろうけど、今は亡き某女子大某教授に「あなた関西の方なの?わからなかったわ」と言われて嬉しかった1999年。
*3 その時の紆余曲折もまた強力なモチベーションとなった。
*4 そういえば最近それ程でもなくなった気がするのは、たまに公式の場でしか会わないからか、「せんせ、なにいうてはるんですか」と怒られそう。
(名古屋大学)
57. Extract of vinegar “Kurosu” from unpolished rice inhibits the proliferation of human cancer cells.
Nanda, K., Miyoshi, N., Nakamura, Y., Shimoji, Y., Tamura, Y., Nishikawa, Y., Uenakai, K., Kohno, H., Tanaka, T.
J. Exp. Clin. Cancer Res., 23(1), 69-75 (2004).
文献25、48の続報。共同研究グループは黒酢抽出物の発がん抑制作用に関する研究をさらに進め、金沢医大の田中先生らと主に大腸がんに対する効果を検討していた。動物実験データについては別の報文で報告していたが(J Exp Clin Cancer Res. 22(4), 591-597, 2003; Nutr Cancer. 49(2), 170-173, 2004)、あわせて作用機構に関する研究を行っていた。上奏するのに必要なデータを得る上で、我々にもお手伝いできることがあり、再び協力することになった。黒酢抽出物は様々なヒトがん細胞(大腸腺腫Caco-2、肺がんA549、胸部腺腫MCF-7、膀胱がん5637、前立腺がんLNCaP)に対して増殖抑制効果を示し、Caco-2への効果が最も顕著であった。このメカニズムとして、p21の誘導を介したG0/G1期での細胞周期停止とアポトーシスの誘導の関与が示唆された。
共同研究先の担当者が、実験のためにわざわざ名古屋に出向かれていたのを思い出す。なぜか、最寄り駅上がったところの居酒屋の風景が。。。よりみちするには危険な店であった。エピソード多数。飲み過ぎて余りの高額請求に手持ちが足りず、学生証を置いて帰ったK博士や「お腹すいてない?ご飯ものでも頼もうか、じゃぁねぇ同じものを5つ!!」という某大先生の有難いお言葉(定番の物真似ネタ)の発祥地としても有名。
(タマノイ酢株式会社、名古屋大学、金沢医科大学との共同研究)
56. Arachidonic acid cascade inhibitors modulate phorbol ester-induced oxidative stress in female ICR mouse skin: differential roles of 5-lipoxygenase and cyclooxygenase-2 in leukocyte infiltration and activation.
Nakamura, Y., Kozuka, M., Naniwa, K., Takabayashi, S., Torikai, K., Hayashi, R., Sato, T., Ohigashi, H., Osawa, T.
Free Radical Biol. Med., 35(9), 997-1007 (2003).
これまでの研究でマウス皮膚二段階炎症モデルを確立し、様々な生体内抗酸化物質の評価系として用いてきた(文献13、15、19、25~28、31、36、41、46、50)。このモデルでは発がん促進物質(PMA)を一定時間の間隔をあけて塗布することにより、活性酸素種が爆発的に産生されるという原理に基づいている。本研究は元々は京都の次男の卒論テーマとして始まったが、マウス皮膚二段階炎症過程におけるアラキドン酸カスケードの寄与を明らかにすることを目的としている。まずアラキドン酸代謝阻害剤の効果を検討したところ、コルチコステロイド(副腎皮質ホルモン)、リポキシゲナーゼ(LO)阻害剤は一回目のPMA塗布によって惹起される浮腫の形成と白血球の浸潤を特異的に阻害することで、期待通り過酸化水素の生成を抑制し、5-リポキシゲナーゼの炎症初期段階(白血球の遊走作用に特徴付けられるpriming段階)への寄与が示唆された。この結果は、マウス皮膚へのアラキドン酸及びロイコトリエンB4の塗布により、priming段階で惹起される現象が部分的に再現されたことによっても支持された。一方、大豆リポキシゲナーゼ産物やプロスタグランジン類はpriming段階を再現できなかった。興味深いことに、シクロオキシゲナーゼ(COX)-2選択的阻害剤は異なった作用を示し、一回目のTPAによるpriming段階には全く影響を与えなかったが、二回目のTPAによるactivation段階(Nox2依存的な活性酸素の産生、脂質過酸化亢進、過形成の誘導)を有意に抑制した。また、HL-60を用いた好中球分化モデル実験から、COX-2阻害剤はTNF-αによる分化増強作用を阻害することが明らかとなり、COX-2阻害剤の抗酸化作用への部分的な寄与が示唆された。以上の結果から、マウス皮膚二段階炎症過程において、アラキドン酸カスケードの各経路は、それぞれ特異的な役割を果たしていることが明らかとなった。この論文はこれまでの生体内抗酸化物質を評価した論文と間接的にリンクし、抗酸化物質の潜在的分子標的を示唆しており意義深いと考えている。
食品成分を全く使っていないことや上奏に苦労したことから、引用件数は少ないが思い出深い論文である。
(名古屋大学、京都大学との共同研究)
55. Dietary ginger constituents, galanals A and B, are potent apoptosis inducers in Human T lymphoma Jurkat cells.
Miyoshi, N., Nakamura, Y., Ueda, Y., Abe, M., Ozawa, Y., Uchida, K., Osawa, T.
Cancer Lett., 199(2), 113-119 (2003).
文献49から始まったミョウガの辛味成分に関する共同研究である。ミョウガジテルペンの生理活性に関する研究例が少ないことから、本論文では抗がん作用を評価した。当初は辛味成分であるアフラモジアールに活性を期待しており、無味のガラナールAとBやショウガ科植物に含まれる著名な生理活性物質のクルクミンや6-ジンゲロールを比較物質として用いた。T細胞性白血病細胞Jurkatに対する効果を評価したところ、予想に反してアフラモジアールには増殖抑制活性が認められず、ガラナール類にクルクミンよりも強い効果が観察された。15位水酸基の立体が異なるAとBで活性が異なることから、7員環の立体構造の変化により分子全体の物理的性質が影響を受けることが想像されるが、詳細は現在も検討中である。ガラナール類はDNA断片化やカスパーゼ-3活性化を誘導し、強力なアポトーシス誘導剤であることが明らかとなったが、そのメカニズムとしてミトコンドリア膜電位の低下、シトクロムcの放出、Baxの発現誘導/Bcl-2の発現低下を経るミトコンドリア損傷経路の関与が示唆された。この論文の一番のポイントは、ガラナール類をクルクミンやゼルンボンと並ぶショウガ科特異的生理活性(抗がん)物質群の一員に加えることができた点である。
名古屋次男の卒論のテーマであったが、長男の厳しい指導のもと、何とか形になってほっとしたことを覚えている。次男は学部で卒業したが、とてもユニークな男であり、大府での徹夜麻雀に夜中に急に呼び出されても必ず参列する等、言動も態度も非常に慇懃で先輩から可愛がられている。稲沢市在住で毎年「裸祭り」に出ていたり、急に仕事を辞めてレンタカーでのアメリカ横断旅行を敢行したり、焼肉屋の店長になり働き過ぎて10キロ以上のダイエットに成功したり、差出人氏名のない年賀状を送ってきたり、実は熱狂的な阪神ファンであるなど、エピソードをあげると枚挙に暇がない。
(名古屋大学、高崎健康福祉大学との共同研究)
54. Dihydrochalcones: Evaluation as novel radical-scavenging antioxidants.
Nakamura, Y., Watanabe, S., Miyake, N., Kohno, H., Osawa, T.
J. Agric. Food Chem., 51(11), 3309-3312 (2003).
愛知県の企業との共同研究であるが、大澤先生のお手伝いから始まった。食品素材の発酵や還元処理は元来、嗜好性の改善や劣化の防止などの目的で行われてきたものだが、この頃大澤グループでは、これら加工の過程において抗酸化作用を含めた機能性も増強されることに注目し、これまでにはない食品素材と加工との組合せにより、新しい機能性素材を開発するプロジェクトを展開していた(文献66も参照のこと)。本論文ではジヒドロチャルコン(DHC)というC環が開環したフラボノイドの抗酸化作用に関する構造活性相関を体系的に検討している。このDHCは、柑橘類に比較的多く含まれるフラバノンから、一段階の接触還元反応にて容易に調製できることを共同研究先の日研化成が押えていた(この技術はテトラヒドロクルクミンの合成にも活かされている)。ここでは、安定なフリーラジカルであるDPPHと赤血球膜ゴーストでの脂質過酸化実験を用いて抗酸化活性を評価した。その結果、各々のDHCは構造的に対応する原料のフラバノンよりも有意に強い抗酸化活性を示した。また、NMR解析により、抗酸化活性を持つDHCはA環と4位のカルボニル基が直行した立体配座を取る一方で、2´-O-メチルフロレチンなどの不活性体では強力な分子内水素結合によって平面的な立体配座を取ることが示唆された。以上の結果から、還元処理によって新たに生成した2´位の水酸基がラジカル消去に必須な薬理的活性中心であるという、これまでのフラボノイドにはない大変ユニークな結論を得た。本研究で用いたDHCは、一部天然にも存在し、またヨーロッパにおいて食品添加物(甘味料)の認可を得ているものもあり、今後様々な用途への応用が期待される。
最後までこの研究グループに残った(現在は異なる部署に所属)の第三著者とは、その後も草野球でご一緒させて頂いた。小生が研究室のメンバーと野球している噂を聞いて、是非一緒にやらせて欲しいと言ってこられたのがきっかけである。豪快なスイングとは裏腹に本当に腰が低く、一生懸命なプレーが身上で、ムードメーカーでもある。こういう方がいるとチームプレーの大切さがより重く心に響く。我々のチームは飲み会でのいろいろな武勇伝が存在するが、ほとんど飲み会に参加してされていないのが印象的である。飲むと大変楽しい方ではあるのだが、野球さえ出来れば幸せというモットーと家族との食事を大切にされていることがその理由である。
(名古屋大学、日研化成株式会社との共同研究)
53. Correlation of antimutagenic activity and suppression of CYP1A with the lipophilicity of alkyl gallates and other phenolic compounds.
Feng, Q., Kumagai, T., Nakamura, Y., Uchida, K., Osawa, T.
Mutat. Res., 537(1), 101-108 (2003).
文献39の続報。没食子酸アルキルエステルは一部油性食品の酸化防止剤として汎用されているが、基礎研究ではそれらの功罪が報告されている。そこで本論文では没食子酸エステルの安全性/機能性を抗変異原性とCYPに対する効果を基準に考察している。アルキル基としてはメチル(C1)、エチル(C2)、プロピル(C3)、ラウリル(C12)、セチル(C16)のエステルを用いた。すべてのエステルは、2-アミノアントラセン誘導変異原性(サルモネラのSOS応答)に対してだけでなく、3-メチルコラントレン誘導CYP1A1発現及びEROD活性を有意に抑制した。それぞれの抑制活性はアルキル鎖の長さに正の相関を示し、脂溶性に依存していることが示唆された。そこで、26種類のフェノール性化合物を用いて、抗変異原性、EROD活性抑制能、脂溶性(Rm値)の相関を検討したところ、脂溶性はEROD活性抑制能とよく相関し、EROD抑制活性は抗変異原性とよく相関したことから、特に脂溶性は発がん物質の代謝活性化に寄与するCYPの阻害により寄与していることが示唆された。
筆頭著者はここでも溜めていたスクリーニングデータをうまく活用し、ソリッドではないにしてもひとつの方向性を示す示唆を得て上梓に成功している。
(名古屋大学)
52. Pivotal role of electrophilicity in glutathione S-transferase induction by tert-butylhydroquinone.
Nakamura, Y., Kumagai, T., Yoshida, C., Naito, Y., Miyamoto, M., Ohigashi, H., Osawa, T., Uchida, K.
Biochemistry, 42(14), 4300-4309 (2003).
この論文も名古屋大学時代の思い出深い論文である。元々のスタートは裏D論的共同研究までさかのぼるが、共著者のデータが眠っていたのを何とか世に出せないか、という考えも一つのモチベーションではあった。それ以上に何か新しい概念を簡単な実験から導けないかと思案し、京大でのポスドク時代最終年に四男のもう一つのテーマにした(もう一つは文献50)。
tert-ブチルハイドロキノン(tBHQ)は著名な合成抗酸化剤tert-ブチルヒドキシアニソール(BHA)の肝臓代謝産物で強力な抗酸化物質であるが、これまでにtBHQは強力な第2相薬物代謝酵素誘導物質であることも我々だけでなく、動物や培養細胞を用いて古くから明らかになっていた。tBHQがあまりにも抗酸化物質として有名であったため、tBHQが誘導する第2相薬物代謝酵素遺伝子発現のシスエレメントが、"antioxidant response element(ARE)"と呼ばれる所以でもあった。しかし、その定義に疑問を抱いていた私は、tBHQの持つレドックス活性(抗酸化作用 or 活性酸素生成能)か、或いは求電子性か、いずれが遺伝子発現に重要であるかについては結論が得られていなかったので、この点を明らかにしたいと考えていた。
ある時、tBHQに関する古い論文を調べていると、合成BHAに含まれるコンタミナントの2,5-ジ-tert-ブチルハイドロキノン(DtBHQ)に目が止まった。この化合物は嵩高いtert-ブチル基を両側に持つので、立体障壁により求電子性が著しく減少しているのではないかと考え、tBHQと化学的特性を比較することにした。その結果、tBHQとDtBHQは同等の1電子酸化能を持ち、DPPHラジカル消去、ベンゾキノン型への酸化、銅イオン依存的スーパーオキシド産生のいずれもが同様に観察された。一方、還元型グルタチオンの消費はtBHQで迅速に起こるものの、DtBHQではほとんど起こらず、予想通りDtBHQは求電子性のみ欠失した誘導体であると証明できた。一方、tBHQは細胞内においても求電子性を発揮し、グルタチオン抱合体を生成した。さらに、DtBHQはRL34細胞において、GST発現能が極めて小さく、酸化的代謝により生成したベンゾキノン型代謝物の求電子性が第2相薬物代謝酵素誘導の活性本体であると結論付けた。本研究から、GST遺伝子エンハンサー領域の抗酸化物質/求電子物質応答配列論争に終止符を打った(と思っている)。即ち、AREという表現は適切ではないと。最近の研究からは両方とも大事なようであるので、今後その辺りを詰めて行きたい。
(名古屋大学、京都大学との共同研究)
51. Structures of (−)-epicatechin glucuronide identified from plasma and urine after oral ingestion of (−)-epicatechin: differences between human and rat.
Natsume, M., Osakabe, M., Oyama, M., Sasaki, M., Baba, S., Nakamura, Y., Osawa, T., Terao, J.
Free Radical Biol. Med., 34(7), 840-849 (2003).
カテキン類は現在ヒトが口にする食品に存在する抗酸化物質の中で最も強力なものの一群であり、それらの心臓血管疾患の予防効果に期待が集まっている。なかでも、(-)-エピカテキンは緑茶、紅茶だけでなく、リンゴやチョコレートにも特に多く含まれている。これまでにカテキン類の生体内利用率(バイオアベイラビリティー)に関する報告はいくつもあったが、血中、組織中、尿中に含まれる(-)-エピカテキン代謝物の構造については不明な点が多かった。そこでこの研究では、経口摂取して尿中に排泄された(-)-エピカテキン代謝物を単離精製し、その構造を明らかにしている。ヒト尿中からは、3種の代謝物が単離され、それぞれエピカテキンの3´-O-グルクロン酸抱合体、4´-O-メチル-5-O-グルクロン酸抱合体、4´-O-メチル-7-O-グルクロン酸抱合体と各種機器分析から同定された。一方、ラット尿中からは、3´-O-メチル抱合体、7-O-グルクロン酸抱合体、3´-O-メチル-7-O-グルクロン酸抱合体が同定され、これらはそれぞれ血中からも検出された。以上の結果から、カテキンを含む食品を摂取すると代謝されて体内を循環することが示唆された。主に、二次元NMRによる代謝物の同定に寄与した。
2008年夏、筆頭著者は忙しい業務の合間をぬって名古屋大学にて論博を取得され、少しフィールドが変わられたものの現在もご活躍中である。共同研究だけでなく、隣の研究室出身であることから、学会や同門会でよくご一緒させて頂いた(今春も夜の博多でご一緒した)。飲み会でもパワフルなママさん研究者であるが、お互いの共通点は、現在は企業から大学に移動されたあの方の僕であったことであろうか(実際の貢献度は大きく異なるが)。ココアポリフェノールブームを科学的に支えた博士の一人であることは間違いない。
(明治製菓株式会社、名古屋大学、徳島大学との共同研究)
50. A phase II detoxification enzyme inducer from lemongrass: Identification of citral and involvement of electrophilic reaction in the enzyme induction.
Nakamura, Y., Miyamoto, M., Murakami, A., Ohigashi, H., Osawa, T., Uchida, K.
Biochem. Biophys. Res. Commun., 302(3), 593-600 (2003).
50報目で一区切りの論文であるが、これも所以のある研究である。そもそもレモングラスを研究題材に取りあげたのは、小生の卒論研究に遡る。文献1のスクリーニングで高活性を示したレモングラスに含まれる生理活性成分を探索しはじめたのは、4回生の後半だったような気がする(次の年の農化大会の要旨には間に合っていたので、秋頃か)。4回生前期は、あるショウガに含まれるクルクミン以外の微量成分を追いかけていたのだが、不安定な平衡混合物で精製すればする程欲しいモノの量が減っていき、なかなか前に進まなかった(生理活性天然物化学系研究室の学生さんの発表で、自分と同様の状況を垣間見ると微笑ましい気分になるのは、10数年前に自分がまさに同じ状況にあったからである)。そこで、対象を代えてみようということになって、それと平行してレモングラスにも注目した。レモングラス抽出物の生理活性は、分画すると比較的疎水性の高い画分に集中し、クロマトグラム的にも単純であったので、短期間の間に単離同定することができた。その物質とはシトラールと呼ばれるレモングラスの主要な精油成分で、匂いを知りたい方は百貨店のアロマ(テラピー)のコーナーでレモングラスオイルを探されるとよい。これも幾何異性体(E型のゲラニアールとZ型のネラール)の混合物で光で簡単に異性化するので(師匠のsuggestionだったのを覚えている)、光を遮った条件で注意深く分取してそれぞれを得た。興味深かったのは、異性体で少し香りが異なるだけでなく、生理活性(抗EBウイルス活性化)もゲラニアールが顕著であった(この構造活性相関は他にもビタミンA代謝阻害作用にもみられる)。この結果は学会、総説などで師匠により発表されたが、一部のデータが別グループから既報であり、示唆に乏しく原著論文として日の目を見ることがなかった。
その後、このことがずっと心残りであったのだが、ポスドクになって四男の研究テーマとして再びシトラールを取りあげてみようと決心した。これは偶然ではなく、シトラールはα,β-不飽和アルデヒド構造を有していること、これまでに第2相解毒酵素誘導の報告が存在しないことがモチベーションとなった。本論文では、まずシトラール(異性体混合物)の効果を検討し、弱いながら予想通り有意にGST活性を誘導することを確認した。次に構造活性相関を検討したところ、E型のゲラニアールが活性を担っており、Z型のネラールや共役した炭素炭素二重結合が還元されたシトロネラールは不活性であった。ゲラニアールとネラールのGST誘導活性の差異は、低分子チオールとの反応性(求電子性)とも相関しており、活性発現に必要な構造要因を明らかにすることができた。さらにゲラニアールは、細胞内グルタチオン量を短時間(30分)処理では減少させたものの、長時間(18時間~)では顕著に増加させるだけでなく、in vivo(マウス皮膚)においてもGST誘導と脂質過酸化に対する抑制効果を示した。以上の結果は、シトラールがラジカル消去作用を示さないにもかかわらず、生体内で抗酸化作用を示す新しいカテゴリーの抗酸化物質であることを証明している。満を持して論文として上奏したが、実はこのような背景があったことは四男は知らない(はずである)。
(名古屋大学、京都大学との共同研究)
49. Labdane-type diterpene dialdehyde, a pungent principle of myoga, Zingiber mioga Roscoe.
Abe, M., Ozawa, Y., Uda, Y., Yamada, Y., Morimitsu, Y., Nakamura, Y., Osawa, T.
Biosci. Biotechnol. Biochem., 66(12), 2698-2670 (2002).
ミョウガは東南アジア原産ショウガ科植物で多年草である。野生種がないといわれ、大陸から持ち込まれて栽培され、花穂および若芽の茎が食用とされてきた。繁殖は地下茎による栄養体繁殖が主体である(5倍体であるので、親と同じ染色体数になりにくい)。通常「花茗荷」と呼ばれるものが花穂で蕾が複数存在する。独特の香味辛味と特有の紅色を楽しむものであることから、蕎麦、素麺などの薬味として利用されることが多く、夏が旬の野菜である。香り成分はα-ピネン類であり、紅色の成分はアントシアニンのマルビジン配糖体である。俗に「食べると物忘れがひどくなる」と言われているが、科学的根拠はない。と、ミョウガの説明はこれくらいにして、本題である。元々、ミョウガの辛味成分が明らかになっていないことに注目されたことが発端の研究であり、早い時期から官能試験を指標に主要な辛味成分とその類縁化合物を単離精製されていた。しかし、構造解析中に困難に直面され、大澤先生を伝に尋ねて来られて、経緯を話されていた日を思い出す。どうもショウガに含まれるジテルペンに似ているということがわかり、まさにショウガジテルペンを博士論文のテーマで扱われていた森光先生の協力を得て、同定に至った。単離された3種の化合物は、辛味のあるアフラモジアール(この論文ではミョウガジアール)、無味のガラナールAとBという既知化合物であったが、ミョウガからの単離と嗜好性の解明は初めてであった。
この発表を機に、筆頭著者はお茶の水女子大学博士課程に入学し、本格的にミョウガジテルペンの機能性研究に携わることになる。続編の文献55、61、70も参照されたし。
(高崎健康福祉大学、宇都宮大学、お茶の水女子大学、名古屋大学との共同研究)
48. Isolation and identification of DPPH radical scavenging compounds in Kurosu (Japanese unpolished rice vinegar).
Shimoji, Y., Tamura, Y., Nakamura, Y., Nanda, K., Nishidai, S., Nishikawa, Y., Ishihana, N., Uenakai, K., Ohigashi, H.
J. Agric. Food Chem., 50(22), 6501-6503 (2002).
文献25の続報。黒酢の持つ高い抗酸化性はどのような化合物が担っているかを明らかにした論文で、最終的には4人目の担当者がまとめる形に。米糠に豊富なフェルラ酸(文献46にも既出)とシナピン酸が還元されて生成したジヒドロフェルラ酸とジヒドロシナピン酸を黒酢から単離同定し、親化合物よりも高い抗酸化性を示すこと、この二つの化合物は通常の米酢や精白米にはほとんど含まれないことが明らかとなった。発酵の食品学的な意義は、栄養性、消化性や嗜好性の改善が主であるが、近年機能性の向上にも注目が集まっている。大澤先生とポッカとの一連の研究が著名であり、そちらでは主に麹菌の酸化反応による水酸基の増加と抗酸化性の向上が主要な結論であったが、本論文では酢酸菌による還元反応の抗酸化性向上への関与を示唆しており、新たな機能性改良バイオリアクターとしての可能性という点で興味深い。
(タマノイ酢株式会社、名古屋大学、京都大学との共同研究)
47. Induction of cytochrome P4501A1 by autoclavable culture medium change in HepG2 cells.
Feng, Q., Kumagai, T., Nakamura, Y., Uchida, K., Osawa, T.
Xenbiotica, 32(11), 1033-1043 (2002).
この論文は筆頭著者(文献38、39、41に寄与)が予備実験中に気付いたことが発端の研究であった。実験においてネガティブコントロール(盲検)を取ることは科学の基本であるが、筆者は、単に培地交換するだけでCYP1A1が誘導されることを見出し、非常に気になっていた。最初は実験的な誤差やDMSOが原因ではないかと指摘する声もあったが、被験物質を溶かす溶媒を代えても、再現性よく同じ現象が認められた。実際、リサーチセミナーでの評価も芳しくなかった(つまり予備実験の範疇であると)が、そこから筆者の巻き返しが始まることとなる。この頃、研究室の培養細胞を扱う人員の増加と経費削減の観点から、培地の滅菌操作がフィルターからオートクレーブに代わっていた。オートクレーブ培地に原因があるのではないかという予想は見事的中し、次に培地成分の一つ一つをオートクレーブして、細胞に添加した。その結果、トリプトファンが原因であることを地道な実験の積み重ねで突き止めた。光照射やオートクレーブしたトリプトファンは再現性よくCYP1A1を誘導したことから、トリプトファン酸化物が原因ではないかと考えられたが、結局活性本体の同定には至らなかった。しかし、自分の興味に信念を持って取り組み、他人の評価に惑わされることなく、データを積み重ねてこの研究の意義を見事に論じ、最終的には論文という形で発表した。以前にも述べたがこの筆者の研究姿勢は見習うべき点が多く、この論文も印象深く記憶に残っている。
(名古屋大学)
46. FA15, a hydrophobic derivative of ferulic acid, suppresses inflammatory responses and skin tumor promotion: Comparison with ferulic acid.
Murakami, A., Nakamura, Y., Koshimizu, K., Takahashi, D., Matsumoto, K., Hagihara, K., Taniguch, H., Nomura, E., Hosoda, A., Tsuno, T., Maruta, Y., Kim, H. W., Kawabata, K., Ohigashi, H.
Cancer Lett., 180(2), 121-129 (2002).
続いても、師匠が筆頭著者の論文であるが、共同研究による新規食品成分誘導体(米糠に豊富に含まれるフェルラ酸の2-メチル-1-ブタノールエステル;FA15)の機能性評価に関する論文である。本論文では、RAW264.7細胞におけるiNOS発現、COX-2発現、TNF-α産生、IκB分解、すべてに対して、FA15はフェルラ酸よりも有意に強い抑制効果を示した。また、マウス皮膚2段階炎症実験においてもFA15は有意な生体内抗酸化作用を示すだけでなく、マウス皮膚化学発がんによる良性腫瘍の発生を顕著に抑制した。FA15は天然に存在する原材料から合成された化合物であるが、新しい抗酸化/抗炎症性素材としての応用が期待された。
(近畿大学、名古屋大学、和歌山県工業技術センター、築野食品工業株式会社、京都大学との共同研究)
45. Zerumbone, a South Asian ginger sesquiterpene, markedly suppresses free radical generation, proinflammatory protein producton, and cancer cell proliferation accompanied by apoptosis: The α,β-unsaturated carbonyl group is a prerequisite.
Murakami, A., Takahashi, D., Kinoshita, T., Koshimizu, K., Kim, H. W., Yoshihiro, A., Nakamura, Y., Jiwajinda, S., Ohigashi, H.
Carcinogenesis, 23(5), 795-802 (2002).
ゼルンボンは、ハナショウガに含まれるセスキテルペンで極めて強力な生理活性(抗EBウイルス活性化)物質として師匠により同定された化合物である。この研究では、ゼルンボンの抗炎症作用、抗酸化作用、抗がん作用について、培養細胞を中心に検討し、生理活性発現に必須な構造要因を明らかにした論文である。ゼルンボンは、特徴的な11員環とα,β不飽和カルボニル構造を持ち、著名な抗がん剤タキソール合成のリード化合物としても用いられる一方で、ハナショウガの根茎に大量に含まれる(乾燥重量の約3%が、生合成経路や植物での役割が不明であるなど大変興味深い化合物である(詳しくはこちら)。本研究では、ゼルンボンの脱カルボニル誘導体であるα-フムレンを比較物質として用いている。本研究では、Nox2依存的(分化HL-60細胞)及びXOD依存的(AS52細胞)スーパーオキシド産生、RAW264.7細胞におけるiNOS発現とNO産生、COX-2発現とPGE2産生、TNF-α産生、各種パラメーターに対する抑制効果を検討し、いずれも濃度依存的に抑制すること、α-フムレンはすべてにおいて不活性であることを明らかにしている。さらに、ゼルンボンはヒト大腸腺腫細胞の増殖を顕著に抑制する一方で、大腸由来正常細胞にはあまり影響を与えなかった。
三男はゼルンボンのアポトーシス誘導作用を証明しているが、これは文献44の研究で立ち上げた実験系の貢献度が大きい。本論文には、現地で食用とされるハナショウガの若茎、花部にもゼルンボンが有意に含まれるというデータが最後に加えられているが、この辺りがいかにも分析(京都時代に所属した研究室の昔ながらの略称・愛称)チックで渋いですね。
(近畿大学、京都大学、名古屋大学、カセサート大学、徳島大学との共同研究)
44. Involvement of the mitochondrial death pathway in chemopreventive benzyl isothiocyanate-induced apoptosis.
Nakamura, Y., Kawakami, M., Yoshihiro, A., Miyoshi, N., Ohigashi, H., Kawai, K., Osawa, T., Uchida, K.
J. Biol. Chem., 277(10), 8492-8499 (2002).
ベンジルイソチオシアネート(BITC)によるアポトーシスに関する最初の論文。イソチオシアネートの生理活性は多岐に渡るが、アポトーシス誘導作用はがん予防に関連するもののなかで第2相薬物代謝酵素誘導、第1相酵素阻害に続いて重要であると考えられている。この研究のはじまりは京都時代にまで遡り、大学院から入学してきた三男のテーマとして始めたのが発端である。以前、BITCの解毒酵素誘導機構を研究している際に、細胞内の活性酸素濃度が濃度依存的に上昇することを見出していた。文献20では、GST発現と活性酸素量(DCF蛍光量)との間に相関を見出し、GSTP1の遺伝子発現はレドックス制御を受けていることが示唆されていた。一方で、BITCの処理濃度を上げていくと細胞死が観察され、活性酸素との関係や、そもそもこの活性酸素はどこから来るのか、を明らかにしたいと考えていた。三男とともにアポトーシス/ネクローシス検出(Annexin V-PI二重染色)法やカスパーゼ活性測定法を導入し、比較的低濃度のBITCではアポトーシスを、高濃度になるとネクローシスを誘導する、という今後の礎となるデータを得た。また、細胞内グルタチオン濃度の薬理学的低下は、アポトーシス/ネクローシス誘導に必要なBITC濃度の閾値を有意に低下させ、これらの現象もレドックス制御を受けていることを明らかにした。さらに、ミトコンドリア膜電位の低下、caspase-9経路の寄与を示唆するデータも三男の手で揃えられた。イソチオシアネートのアポトーシスに関する論文はそれまでにもいくつか出ており、ここまでのデータだけでは何かひと味足りないような気がしていた。そんな折、とある国際学会で、幸運にもミトコンドリアやってますという研究者に出会い、その場で共同研究の約束を取り付けることができた。そこで、ラット肝臓から単離したミトコンドリアに対するBITCの効果を検討して頂いた結果、ミトコンドリアの膨潤、シトクロムcの放出、呼吸鎖の阻害を直接的に観察することができ、細胞系での実験を強く支持することとなった。この時点では結局、活性酸素種の寄与や由来を証明することは出来なかったが、本研究でミトコンドリア由来であることを強く示唆することができ、後の文献84のρ細胞を用いた実験による決着を待つこととなる。
ミトコンドリア実験で中心的役割を果たした研究者とはその後もう1報(文献69)分の仕事を一緒にした。彼女は最初にあった時、社会人(臨床検査技師)からの出戻り学生で、その後別の大学で博士を取り、現在は結婚して第一線からは退いているが、粘り強さが身上で根気よく奇麗なデータをとっていたことや、ミトコンドリアの単離も歴代最も上手だと教授がおっしゃっていたことが今でも印象に残っている。その後結婚、出産を経て、2013年度から浜松の医療科学専門学校で教員として復帰中。本論文には名古屋長男も顔を出しているが、彼の活躍はまた次で。
(名古屋大学、中京女子大学、京都大学との共同研究)
43. Screening of edible Japanese plants for suppressive effects on phorbol ester-induced superoxide generation in differentiated HL-60 cells and AS-52 cells.
Kim, H.W., Murakami, A., Nakamura, Y., Ohigashi, H.
Cancer Lett., 176(1), 7-16 (2002).
細胞を用いた新規活性酸素産生実験系の構築と和産野菜のスクリーニング結果を示した論文。上皮細胞に発現するキサンチンオキシダーゼ(XOD)も生体内においてスーパーオキシドを産生に関与する重要な酵素である。これまでXOD酵素標品を用いた試験管内実験系が汎用されてきたが、細胞を用いた実験系は存在しなかった。師匠が米国での短期研修で扱ったAS52細胞はフォルボールエステルや炎症性サイトカインなどに応答してスーパーオキシドを産生し、著名なXOD阻害剤であるアロプリノールを用いることで、本細胞がXOD依存的に活性酸素を産生することを確認している。さらに本系を用いて、和産食用植物の阻害活性スクリーニングを、HL-60細胞系と比較しながら行い、ミョウガ、ナタネ、アボカドなどに強い阻害活性を見出している。共著にして頂いたのは、HL-60細胞系の汎用化に苦心したことへの評価だと信じている。
この後、筆頭著者は好中球やマクロファージとの共培養系を構築することで、その相互作用で生じた活性種による変異原性を評価し、炎症関連発がんにおける活性酸素窒素種の病理的意義を実験的に証明するとともに、抗酸化食品成分の評価研究へと発展し、彼は博士を取得した。語学が堪能な彼は日本語もとても流暢で、その後ヒューストン、ニューヨーク、アトランタ、シカゴと渡り歩き (1)、苦労も多かった (2) が、2009年現在シンシナティで職を得ている。留学先選びで貴重な意見を頂いただけでなく、シカゴでは家族ぐるみの付き合いをして頂き、公私ともに大変お世話になった。京都時代のやんちゃな彼 (3) を知るものとしては信じられないほどのアットホームダッド振り (4) など、その時の話はまたどこかで。
*1 大リーグにJourney Manという表現があるように、本当メジャーリーガーみたいですね。
*2 師匠も大変心配されていた。
*3 当時の研究室のメンバー最も○○だったとの噂(三男談)、木屋町がホームグランド。
*4 主夫ではないから、表現はフテキセツか、よきパパ振り。2009年第2子誕生。
(京都大学、名古屋大学との共同研究)
42. A sulforaphane analogue that potently activates the Nrf2-dependent detoxification pathway.
Morimitsu, Y., Nakagawa, Y., Hayashi, H., Fujii, H., Kumagai, T., Nakamura, Y., Osawa, T., Horio, F., Itoh, K., Yamamoto, M., Uchida, K.
J. Biol. Chem., 277(5), 3456-3463 (2002).
わさびに含まれるイソチオシアネート(6-メチルスルフィニイルヘキシルITC、6-MSHITC)の話だとは、題からは想像もつかないが、第2相薬物代謝酵素誘導と転写因子Nrf2の関与を証明した論文である。文献20、21、24で開発したRL34細胞系を用いて、ワサビが解毒酵素誘導物質の豊富な供給源となりうること、活性本体が6-MSHITCであることを示している。また、in vivoでも解毒酵素を誘導できること、Nrf2ノックアウトマウスでは誘導能が欠損していること、レポーターアッセーからは、Nrf2のantioxidant response element(ARE)への結合が6-MSHITCにより誘導されることなどが明らかとなり、6MSHITCもブロッコリーに含まれるスルフォラファンと同様にKeap1/Nrf2/ARE経路を活性化することが示唆された。この経路の発見は、求電子性物質のもつ「electrophile counterattack(求電子性物質の返す刀)」機能が様々なストレスに対する抵抗性の賦与やがん予防へ寄与する分子基盤であることを支持する上で、極めて重要である。この「electrophile counterattack」概念の成立は古く、毒性を示さない濃度の求電子性物質を予め投与しておくと、求電子性究極発がん物質による化学発がんのリスクが低減されるという現象を基に提唱されたが、以前(我々が研究を始めた頃)は解毒酵素系の関与は示唆されていたものの、詳細なメカニズムが不明であった。それまでの解毒酵素誘導機構は、芳香族炭化水素やダイオキシン等が誘導するArylhydrocarbon (Ah) receptor/xenobiotic response element(XRE)経路のみであり、GSTαクラス遺伝子の調節領域にXREが存在することが知られていた。この経路は元々CYP1A1を活性化する経路として見出されたもので、ある種の求電子性物質がCYPの発現に影響を与えずに、第2相酵素のみを特異的に誘導する現象を説明することができなかった。Nrf2依存性経路の発見はこの矛盾を解決したばかりでなく、発がん物質や薬剤の副作用といった求電子性物質の悪名高い歴史的背景を覆し、求電子性物質を新しい生理機能調節因子、新しいカテゴリーの抗酸化物質として認知させることに大きく貢献している。
余談ではあるが、筆頭著者は小生の前任者であり、タマネギやニンニクの特徴的な香味を担う有機硫黄化合物の大家である。特に赴任の際には公私ともにお世話になったが、住んでおられた閑静な町(植田山)を、一度泊めて頂いた時にいたく気に入り、自分の下宿をそこに選んだ理由になったことはあまり知られていない。
(名古屋大学、筑波大学との共同研究)
41. Ebselen, a glutathione peroxidase mimetic seleno-organic compound, as a multifunctional antioxidant: Implication for inflammation-associated carcinogenesis.
Nakamura, Y., Feng, Q., Kumagai, T., Torikai, K., Ohigashi, H., Osawa, T., Noguchi, N., Niki, E., Uchida, K.
J. Biol. Chem., 277(4), 2687-2694 (2002).
セレンは鉄やカルシウムほどに注意を払われないが、生体に必須な微量元素である。栄養学的有効濃度幅が狭いのが特徴的であり、欠乏症として心筋症、心筋梗塞などの心臓疾患(中国の克山病)筋異常、がんなどが知られる一方で、脱毛、爪や皮膚、歯の変化、嘔吐、脱力感などの過剰症も報告されている。セレンは動物において重要な生体内抗酸化酵素であるグルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)の活性中心に存在することや、セレンプロテインPと呼ばれる抗酸化性糖蛋白質の構成因子としての機能が重要視されている。一方、エブセレンは、分子内にセレンを含有する有機化合物で、GPx様作用(GPxの約100分の1の触媒活性があるとされる)、リポキシゲナーゼ阻害作用、ペルオキシナイトライト還元作用など抗酸化活性を持つ薬剤である。エブセレンは脂溶性に富み、細胞内のチオール基との反応性(セレンの求電子性)により、細胞内に分布、GPx様作用、細胞内酸化還元調節作用等を発現すると考えられている。この時点では、まだエブセレンの持つレドックスポテンシャルの生体への影響はそれほど詳細に検討されていなかったことから、本研究ではエブセレンのin vivoでの抗酸化作用をTPAを用いたマウス皮膚炎症二段階実験モデルにて検討した。その結果、すべての酸化ストレスマーカーを低減し、エブセレンはマウス皮膚に対して有効に抗酸化作用を示すことを確かめた。また、その作用機構として、Nox2依存的な活性酸素生成だけでなく、炎症部位への好中球の浸潤を阻害すること、またGSTやNQO1といった第2相薬物代謝酵素の誘導とそれらの寄与を明らかにした。以上の結果から、エブセレンは多機能性抗酸化物質であり、特に炎症が関係するがんの予防薬として有望であることが示唆された。
ポスドク時代に内田先生から評価の打診があり、長男の協力で得ていた抗炎症に関する結果が基となった研究であるが、マウス炎症系と第2相解毒酵素系の両方を用いて生体内抗酸化作用を論じた初めて論文で、現象論に終始しているものの示唆に富んでいる。エブセレンの第2相酵素誘導作用をはじめて証明したことが高評価につながっているが、後に内田先生らによってエブセレンが生体内で求電子剤として作用し、タンパク質の求核性アミノ酸との反応が明らかにされている。当時追いかけていたもの(生理活性物質)には、共通した特徴があることは今ではよく理解できるが、その頃は闇雲のだった。ただ当時は、これを求電子性物質として取り扱うのは憚られる程、抗酸化物質としての先行したイメージが強かった。またまた反省のひとくだりである。
(名古屋大学、京都大学、東京大学との共同研究)
40. Role of p38 mitogen-activated protein kinase in the 4-hydroxy-2-nonenal-induced cyclooxygenase-2 expression.
Kumagai, T., Nakamura, Y., Osawa, T., Uchida, K.
Arch. Biochem. Biophys., 397(2), 240-245 (2002).
文献23の続報であり、HNEによるCOX-2誘導メカニズムを解析したもので、ABB誌のE.R. Stadtman博士に捧げる特別号に掲載された。HNEはp38 MAPKやその上流のMKK3/MKK6のリン酸化を処理後5分で誘導し、p38経路の阻害剤SB203580はHNEによるCOX-2発現を抑制した。 重ねて、p38の過剰発現はCOX-2誘導を増強し、変異型p38過剰発現(ドミナントネガティブ)は逆に抑制した。さらに、p38経路の活性化はCOX-2 mRNAの安定化に寄与していることも観察し、HNEによるCOX-2誘導の特異的経路を明らかにした。
この筆頭著者との付き合いも長く、ここには書ききれない程の思い出があるが、眼鏡の奥の細い目が時に優しく、その一方で物事の本質を捉えようとする時にはとてつもなく厳しかったのが忘れられない。名古屋の長男は下宿が近所だったこともあり、苦労人で丁寧な仕事がモットーの彼の影響を大きく受けた一人である。
(名古屋大学)
39. Black tea polyphenols, theaflavins, prevent cellular DNA damage by inhibiting oxidative stress and suppressing cytochrome P450 1A1 in cell cultures.
Feng, Q., Torii, Y., Uchida, K., Nakamura, Y., Hara, Y., Osawa, T.
J. Agric. Food Chem., 50(1), 213-220 (2002).
前報に続いて、紅茶テアフラビンのDNA損傷に対する抑制効果を評価している。この頃の抗酸化物質研究は、それまでに試験管内での汎用実験を用いて化学的なラジカル捕捉物質が様々な食品素材から多数単離され、生理活性物質探索という意味での一義的な役目をほぼ終えており、次にどの抗酸化物質が優れているか、差別化を図るステップに移行した時期である。前論文でもそうであるが、生体内で本当に抗酸化物質として作用しているかを明らかにすることが一つの目標であり、細胞内で起きる酸化的損傷を指標に評価する実験系の開発が進んだ時期でもあった。紅茶に含まれるテアフラビンは、緑茶中のエピガロカテキンとエピカテキンを混合し、フェノールオキシダーゼを作用させると生成する烏龍茶や紅茶に特有の褐色物質である。本論文では酵素的に発生させた過酸化水素や有機ヒドロペルオキシドによる細胞毒性、細胞内酸化レベル、DNA損傷(コメットアッセー)、及び8-OHdGの生成がテアフラビンにより有意に抑制されることを明らかにしている。また、テアフラビンは薬剤により誘導されたCYP1A1の発現低下を介して、発がん物質ベンゾピレンによるDNA損傷を抑制し、テアフラビンによるDNA保護作用の分子基盤に関する知見を得た。論文中の大きなミスには現在でも恥ずかしく、責任を感じている。
この筆頭著者もパワフルな留学生で(博士課程3年+αで4報を発表)、先ずできる限りの実験をして、いいのも悪いのも含めて得られた結果全体から隠されたメッセージを探すタイプの学生であり、少し強引なところもあったが、現在の学生にも見習ってもらいたいところが大いにあると感じている。
(名古屋大学、東京フードテクノ株式会社との共同研究)
38. Anticarcinogenic antioxidants as inhibitors against intracellular oxidative stress.
Feng, Q., Kumagai, T., Torii, Y., Osawa, T., Nakamura, Y., Uchida, K.
Free Radical Res., 35(6), 779-788 (2001).
酸化ストレスが様々な疾病の発症に関わることから、天然抗酸化物質の摂取がこれら疾病の予防に有効であることが示唆されてきた。この論文では新しい抗酸化物質評価法の開発とその有効性を評価している。文献18で明らかにした過酸化脂質最終産物HNEによる細胞内peroxide量の上昇とそれに依存した細胞毒性を指標に、ケルセチン、緑茶のエピガロカテキンガレート(EGCG)、紅茶のテアフラビン類の効果を評価した。その結果、これらの化合物はHNEによる活性酸素生成と毒性を有意に抑制し、ミトコンドリア膜電位の撹乱に対しても防御作用を示した。以上の結果から、細胞内においても有効に抗酸化作用を発揮し、そのメカニズムとしてミトコンドリアの電子伝達系の保護作用の関与が示唆された。
(名古屋大学)
37. Toxic dose of a simple phenolic antioxidant, protocatechuic acid, attenuates the glutathione level in ICR mouse liver and kidney.
Nakamura, Y., Torikai, K., Ohigashi, H.
J. Agric. Food Chem., 49(11), 5674-5678 (2001).
引き続き、長男の修論研究から。PAの毒性が皮膚だけではなく、経口投与により肝臓や腎臓にも起こりうることを示している。高用量PA(500 mg/kg)の腹腔内投与は、肝臓や腎臓のグルタチオン(GSH)レベルを低下させ、弱いながら肝毒性、腎毒性パラメーター(ALT活性、尿素量)の増加が認められた。亜慢性試験において、PA(0.1%)を含む飲料水の60日間投与においても同様の傾向が認められた。この肝毒性におけるGSHの役割は、予めブチオニンスルフォキシミン(BSO)投与により肝臓GSHレベルを低下させたマウスにて証明され、PAをはじめとした求電子性物質の大量投与は、発がん物質をはじめとした毒物に対する解毒能を低下させる可能性を指摘している。求電子性物質(前駆物質も含めて)の容量コントロールの重要性を指摘するだけでなく、臓器に関わらず起こりうる可能性を証明した点で意義深い。
長男は卒業後、某煙草会社に研究職で勤め、筆頭著者の論文を発表する等、博士取得も視野に入れ研究に勤しんでいたが、元々の夢であった職に就くために退社し、大学院に入り直した。上記のように修士までの3年で複数の論文になる仕事を成し遂げているが、実験の組立から自立してできる学生は極稀であり、その優秀さはいわずもがなである。今後の活躍を耳にするのを今から楽しみにしている。その後、司法試験に合格した(2009年)。
(名古屋大学、京都大学との共同研究)
36. A catechol antioxidant protocatechuic acid potentiates inflammatory leukocyte-derived oxidative stress in mouse skin via a tyrosinase bioactivation pathway.
Nakamura, Y., Torikai, K., Ohigashi, H.
Free Radical Biol. Med., 30(9), 967-978 (2001).
文献28の続報であるが、今後の求電子性物質の研究における試金石的な意味合いでも重要な論文であり、弟子(長男)による根気強い実験の賜物である。プロトカテキュ酸(PA)のマウス皮膚での炎症応答における効果をさらに調査している。発がんプロモーターTPA(PMAと同じ物質)に耐性で黒毛(メラニン生成量がアルビノのICRよりも劇的に多い)のB6C3F1マウスにおいても、極めて高い容量(20 μmol)のPA塗布は炎症性パラメーターを有意に変化させた。また、B6C3F1でのPAによる起炎症作用はICRに比べてより顕著であった。これらの結果は、PAによる毒性作用がTPA依存性起炎症経路と独立して惹起されること、チロシナーゼを介した生物学的(代謝的)活性化の関与を支持した。PAの亜慢性投与(5週間)のTPA誘発性起炎症作用や酸化ストレスへの影響は、低容量で抑制、高用量で増強という既報の発がん実験をさらに支持する結果となった。さらにPA単独の高用量塗布が接触過敏症(IV型アレルギー)を誘発することも見出した。加えて、培養細胞における毒性実験から、PAは他のペルオキシダーゼではなく、チロシナーゼなどのフェノールオキシダーゼにより、求電子反応性を獲得することを確認した。以上の結果から、酵素依存的に生成した反応性の高いキノン中間体は、タンパク質の求核性アミノ酸残基との結合を介して細胞性免疫応答を修飾することで、炎症を惹起することが示唆された。
カテコール型ポリフェノールがタンパク質に共有結合することは近年明らかにされつつあるが、その病理学生理学的意義を考察する上で、無視できない報文と考えている。
(名古屋大学、京都大学との共同研究)
35. The amide hydrogen of (-)-indolactam-V and benzolactamV8's plays a critical role in protein kinase C binding and tumor-promoting activities.
Nakagawa, Y., Irie, K., Nakamura, Y., Ohigashi, H.
Bioorg. Med. Chem. Lett., 11(5), 723-728 (2001).
文献14に続くILVの構造活性相関研究。ILVのラクトン誘導体は文献11で既に合成し、不活性であることを報告していたが、その原因が不活性なsofa立体配座によるものか、アミド基水素の消失によるものか、確かではなかった。そこで、ILVのアミド基水素のPKC結合への関与を調査する目的で、ベンゼン環を含みILVと同様の生物活性を示す8員環(ILVは9員環構造)のベンゾラクタムV8(BLV8)とそのラクトン誘導体を合成し、生物活性を評価した。その結果、ラクトン誘導体はBLV8と同様の立体配座を有するにもかかわらず、PKCとの結合や生物活性は極めて低く、アミド基水素のPKC 結合への寄与を強く示唆した。生物活性(EBVアッセイ、分化HL-60細胞アッセイ)を担当。
(京都大学、名古屋大学との共同研究)
34. The C4 hydroxyl group of phorol esters is not necessary for protein kinase C binding.
Tanaka, M., Irie, K., Nakagawa, Y., Nakamura, Y., Ohigashi, H., Wender, P. A.
Bioorg. Med. Chem. Lett., 11(5), 719-722 (2001).
この論文から、小生の所属が名古屋大学となる。文献29に続く、フォルボールエステルの構造活性相関に関する論文。フォルボールエステルの4位の水酸基がPKCとの結合に重要かどうかを調べる目的で、PDBuなどの4β位デオキシ体を合成したが、4β位水酸基体と同等のPKC結合活性だけでなく、生物活性においても差異は認められなかった。この結果は、生体内でのフォルボールエステル-PKC結合における4位水酸基の意義に関して、X線結晶構造解析による固相での解析結果ではなく、NMR等の液相での解析結果からの予想を支持するものであった。生物活性(EBVアッセイ、分化HL-60細胞アッセイ)を担当。
(京都大学、名古屋大学、スタンフォード大学との共同研究)
33. Suppressive effects of citrus fruits on free radical generation and nobiletin, an anti-inflammatory polymethoxyflavonoid.
Murakami, A., Nakamura, Y., Ohto, Y., Yano, M., Koshiba, T., Koshimizu, K., Ohigashi, H.
BioFactors, 12(1-4), 187-192 (2000).
文献26、27と関連深い論文。柑橘類31種の砂じょうと果皮を用い、キサンチンオキシダーゼ系、分化HL-60細胞系、RAW264.7細胞系での活性酸素・窒素種産生阻害作用のスクリーニングを行った論文。柑橘類には精油成分、フラボノイド、リモノイド、クマリン類など様々な生理活性物質を含んでいるが、おしなべて砂じょうよりも果皮の方に活性が高く、通説(果皮に有効成分が多い)を支持する結果となっており、とても興味深い。
(近畿大学、京都大学、果樹試験場との共同研究)
32. Nitric oxide synthase is induced in tumor promoter-sensitive, but not resistant, JB6 mouse epidermal cells co-cultured with interferon-γ-stimulated RAW 264.7 cells: The role of tumor necrosis factor-α.
Murakami, A., Kawabata, K., Koshiba, T., Gao, G., Nakamura, Y., Koshimizu, K., Ohigashi, H.
Cancer Res., 60(22), 6326-6331 (2000).
師匠の代表的論文の一つであり、食品成分が全く出て来ない点で面白い。一酸化窒素/iNOSの発がんへの寄与に関しては諸説あるが、炎症性サイトカインのパラクラインループを介したマクロファージ・上皮細胞間相互作用を証明した論文。米国国立がん研究所のColburnによって樹立されたマウスの正常皮膚上皮細胞株のJB6細胞は、PMA、EGF、TNFαなどの刺激により容易に腫瘍化する非常にユニークな変異株(P+)と腫瘍化しないP-株があり、in vitro多段階発がん実験モデル(P-は発がん物質のイニシエーション作用をP+はプロモーション作用をそれぞれ評価できる)として著名である。
本研究では、インターフェロン(IFN)-γで刺激したRAW264.7細胞の培養培地(conditioned medium)をJB6細胞に振り掛けたり、二つの細胞株を共培養したりすると、P+株のみ亜硝酸イオン(一酸化窒素の不均化、分解により生じる)の生成が相乗的に増強されることを見出している。JB6P+にIFN-γを処理しても、iNOSの発現には大きく影響を与えないので、IFN-γ処理したRAW264.7から産生される物質の寄与が示唆された。さらに中和抗体やサイトカイン標品を用いた実験により、腫瘍壊死因子(TNF-α)を同定し、「活性化されたマクロファージはTNF-αの産生を介して、NF-κBが活性化した上皮腫瘍細胞のiNOS発現を特異的に誘導し、発がん過程に寄与する」という仮説を提出した。
(近畿大学、京都大学との共同研究)
31. An avocado constituent, persenone A, suppresses expression of inducible forms of nitric oxide synthase and cyclooxygenase in macrophages, and hydrogen peroxide generation in mouse skin.
Kim, O.K., Murakami, A., Takahashi, D., Nakamura, Y., Torikai, K., Kim, H.W., Ohigashi, H.
Biosci. Biotechnol. Biochem., 64(11), 2500-2503 (2000)
同じく文献22の続報、アボカドに含まれるペルセノンAの抗炎症作用に関する論文。ペルセノンAは、マクロファージでのCOX-2及びiNOS(誘導型一酸化窒素合成酵素)発現、マウス皮膚炎症における過酸化水素産生を、それぞれ有意に抑制することを明らかにした。
(京都大学、近畿大学との共同研究)
30. Inhibition by (+)-persenone A-related compounds of nitric oxide and superoxide generation from inflammatory leukocytes.
Kim, O.K., Murakami, A., Nakamura, Y., Kim, H.W., Ohigashi, H.
Biosci. Biotechnol. Biochem., 64(11), 2496-2499 (2000).
文献22の続報、アボカドに含まれる一酸化窒素合成阻害/スーパーオキシド産生阻害物質ペルセノンAの全合成と構造活性相関に関する論文。2位水酸基の立体は活性に影響を与えないが、求電子性のエノン(6-en-5-one)構造がスーパーオキシド産生阻害作用に重要であることが明らかとなった。この知見も求電子性食品成分に関する今後の研究につながった。
(京都大学、近畿大学との共同研究)
29. Synthesis and tumor-promoting activities of 12-epi-phorbol-12,13-dibutyrate.
Irie, K., Nakahara, A., Ikawa, Y., Tanaka, M., Nakagawa, Y., Nakamura, Y., Ohigashi, H., Wender, P. A.
Biosci. Biotechnol. Biochem., 64(11), 2429-2436 (2000).
発がんプロモーターであるフォルボールエステルの構造活性相関に関する論文。フォルボールエステルの3、4、9、20位の酸素置換基と12、13位の疎水性置換基の存在が必要であり、13位のアシル基はPKCとの結合に重要であることが示唆されていたが、12位デオキシ体にアンタゴニスト的作用が示唆されている以外は、12位の意義は不明であった。そこで、フォルボールジブチレート(PDBu)の12位エピ体を合成し、12位の立体の影響を検討した結果、生物活性で約100倍弱く、12βエステル構造が発がんプロモーション活性に重要であることが示唆された。
共同研究者のWenderはフォルボールの全合成に成功した人として有名だと知ったのが最近で恥ずかしい。本研究の中心人物だった後輩とはしばらく会えなくなったのでとても寂しいが、生協2階の喫茶で長男達ともにランチミーティングし、研究や将来のことなど毎日のように長い時間話していたのが懐かしい。
(京都大学、スタンフォード大学との共同研究)
28. A simple phenolic antioxidant protocatechuic acid enhances tumor promotion and oxidative stress in female ICR mouse skin: Dose- and timing-dependent enhancement and involvement of bioactivation by tyrosinase.
Nakamura, Y., Torikai, K., Ohto, Y., Murakami, A., Tanaka, T., Ohigashi, H.
Carcinogenesis, 21(10), 1899-1907 (2000).
そもそも、この研究の発端は極めてユニークである。プロトカテキュ酸(PA)は共同研究先の田中先生が注目されていた化合物で、強力な大腸発がんの抑制作用を示す。一度こちらの皮膚化学発がんでも評価してみてはどうかと、打診された師匠が実験を始め(自分はまだ修士だった)、マウスのお世話と薬剤処理をお手伝いしていたところ、予想に反して無効、或いは用量によって促進する結果を得ていた。その時はその結果を積極的に捉えていなかったが、それから数年後、弟子(長男)とテーマの相談をしている時に思い出し、何か重要なメッセージが隠されていると(確信めいたものを)ひらめいたことを思い出す。ちょうどその頃、フィンランドショックから単一の食品成分を用いることの功罪が議論されはじめた背景もあり、もう一度PAの皮膚化学発がんに対する濃度依存性を再検討することから、研究を開始した。
その結果、PA 16 nmolという低用量では顕著に腫瘍形成を抑制するにもかかわらず、160 nmolの塗布で効果が無くなり、1.6 μmolでは有意に増加させた。PA自体は、カテコール構造を有する強力なラジカル消去物質であることから、この作用に代謝が関わっている可能性を検討するために、さらに20 μmolと容量を増やし追試を行った。これまでの実験では、発がん促進物質(PMA)の塗布40分前に被験物質を塗布していたが、ここでは5分前と3時間前に処理時間を設定して実験を行ったところ、5分前では高用量でも抑制効果が認められたのに対し、3時間前では平均腫瘍個数で約2倍に増加させた。この処理時間の違いによる現象が短期的な生化学変化にも影響を与えているかを検討したところ、PMAによる起炎症作用において、白血球の炎症部位への浸潤、過酸化水素産生、過酸化脂質量、過形成誘導が、PAの用量、処理時間依存的に増強されることを見出した。さらには、高用量PAの処理は、皮膚組織のグルタチオン量やグルタチオンを基質とする酵素(グルタチオンペルオシダーゼ、GST)活性を処理後3時間をピークに減少させ、チロシナーゼ阻害剤アルブチンが上記の逆作用を中和することを認めた。本研究から高用量のPAは、マウス皮膚においてフェノールオキシダーゼ依存的に求電子性代謝物へと変換されることで、GSH依存性生体防御機構を撹乱し、酸化ストレスの上昇、腫瘍細胞の増殖に有利な過形成の進行を誘発することが明らかとなった。
この論文は、例え高い健康維持効果が期待される食品成分でさえ、細胞内に高濃度に存在すると非特異的反応により、毒性が発現する可能性を示した点で意義深いと信じている。近年、不十分な野菜の摂取を有効成分のサプリメントで補おうという観点が定着しつつあるが、現在も持ち続けている「サプリメントがある故に普段の食生活を疎かにすることは百害あって一利なし」という考え方を、この論文を転機としてより強く持つようになった。
(京都大学、近畿大学、金沢医科大学との共同研究)
27. Suppression by citrus auraptene of phorbol ester- and endotoxin-induced inflammatory responses: Role of attenuation of leukocyte activation.
Murakami, A., Nakamura, Y., Tanaka, T., Kawabata, K., Takahashi, D., Koshimizu, K., Ohigashi, H.
Carcinogenesis, 21(10), 1843-1850 (2000).
文献9の続編。オーラプテンの炎症部位における活性酸素、活性窒素種の産生阻害作用をin vitroに加えて、in vivoでも評価し、オーラプテンが有望な炎症関連疾患予防物質であることを支持する分子基盤を明らかにしている。ゲラニル基を持たない誘導体であるウンベリフェロンが不活性であり、細胞内への取込みにも大きな差が認められたことから、オーラプテンの生体内抗酸化作用の発現には脂溶性基の存在が重要であることが示唆された。
前報のノビレチンとともに複数の共同研究先に供され、様々な臓器での発がん実験モデルにおける有効性が詳細に検討されているが、天然物屋として理想的な研究の広がりである。ここでも動物実験を担当。
(近畿大学、京都大学、金沢医科大学との共同研究)
26. Inhibitory effect of citrus nobiletin on phorbol ester-induced skin inflammation, oxidative stress, and tumor promotion in mice.
Murakami, A., Nakamura, Y., Torikai, K., Tanaka, T., Koshiba, T., Koshimizu, K., Kuwahara, S., Takahashi, Y., Ogawa, K., Yano, M., Tokuda, H., Nishino, H., Mimaki, Y., Sashida, Y., Kitanaka, S., Ohigashi, H.
Cancer Res., 60(18), 5059-5066 (2000).
ノビレチンは柑橘類特異的なポリメトキシフラボノイドの一種で、6つのすべての水酸基がメトキシ化されている特徴的な構造を持つ。温州ミカンから単離されたが、マンダリン、ポンカン、シークワーサーの果皮に多いとされ、現在ではがん予防だけでなく、転移抑制、リウマチや骨粗鬆症の予防、血糖上昇抑制作用、血圧上昇抑制作用、脂質代謝改善作用、脂肪細胞分化促進作用など多彩な機能性が報告されている。本論文ではこれまで培ってきた知識、実験手法をすべて駆使して、ノビレチンの抗炎症作用、生体内抗酸化作用、皮膚化学発がん予防作用を明らかにした。主に抗酸化の動物実験を担当。
有名誌に掲載された本論文は食品機能や医薬学の分野にノビレチンの持つ潜在能力を初めて紹介したという点だけでなく、柑橘類の機能性に関する生研機構の産官学連携プロジェクトにおける一つの象徴的な成果として極めて意義深い。この論文を転機として大東研の研究分野における位置付けがある意味変わったと思うし、この年の師匠の活躍は質量ともに凄まじく(大東研の黄金期ともいえる)、とてもまばゆいものだった。
(近畿大学、京都大学、金沢医科大学、和歌山県農産物加工研究所、果樹試験場、京都府立医大、東京薬科大学、日本大学との共同研究)
25. Kurosu, a traditional vinegar produced from unpolished rice, suppresses lipid peroxidation in vitro and in mouse skin.
Nishidai, S., Nakamura, Y., Torikai, K., Yamamoto, M., Ishihara, N., Mori, H., Ohigashi, H.
Biosci. Biotechnol. Biochem., 64(9), 1909-1914 (2000).
黒酢は玄米を原料として静置表面発酵にて作られる伝統的な食酢(鹿児島県の壺酢が有名)であり、色彩と豊富な有機酸が特徴である。黒酢抽出物のin vitro抗酸化作用を検討したところ、原料の異なる食酢よりも高い活性を示し、in vivoにおいても過酸化水素量、過酸化脂質量、ミエロペルオシダーゼ(MPO)活性を低下させ、有効に生体内で抗酸化作用を発揮した。さらにマウス皮膚化学発がんにおいても腫瘍個数を減少させ、炎症関連発がんに対する予防効果が示唆された。
企業との初めてのコラボであったが、単なるサンプル依頼ではなく、出向で実験しに来られた。自分達の手でモノにしようという熱意が、短期で担当者が代わるなどの障害を乗り越えて(熱意が引き継がれて)、大きな成果を成し遂げられた要因だと思う。共同研究者とは、その後研究を離れても新年のご挨拶だけは欠かしていない。続報も参照されたし(文献48、57)。
(京都大学、タマノイ酢株式会社との共同研究)
24. A glutathione S-transferase inducer from papaya in the cultured normal rat liver epithelial cell line: Rapid screening, identification and structure-activity relationship of isothiocyanate.
Nakamura, Y., Morimitsu, Y., Uzu, T., Ohigashi, H., Murakami, A., Naito, Y., Nakagawa, Y., Osawa, T., Uchida, K.
Cancer Lett., 157(2), 193-200 (2000).
文献20とペアで発表した論文で、GSTアッセーに適した細胞株の選定とイソチオシアネート(ITC)類のスクリーニングの結果を示し、そしてイソチオシアネート基の求電子性とGST発現誘導活性との相関を示唆した報文。Talalayらは phenyl ITCをはじめとしたITC基に隣接したメチレンが存在しないと不活性である理由を、逆にメチレンが存在するITCには、互変異性(-CH2-N=C=S⇔-CH=NH-C=S)が生じるため(活性がある)と説明していたが、本論文でp-nitro-phenyl ITCが有意にGSTを誘導することを見付け、上記仮説の矛盾を指摘した点で意義深い。
2番弟子(次女)は長女程器用でなかったが、この論文の原動力となり、地道に根気よくデータを積み重ねることの大切さを改めて教えてくれた。来る日も来る日も次女と二人でWesternと酵素実験を繰り返していたことを不意に思い出したのは、留学の地シカゴであった。
(京都大学、お茶の水女子大学、近畿大学、名古屋大学との共同研究)
23. 4-Hydroxy-2-nonenal, the end product of lipid peroxidation, is a specific inducer of cyclooxygenase-2 gene expression.
Kumagai, T., Kawamoto, Y., Nakamura, Y., Hatayama, I., Satoh, K., Osawa, T., Uchida, K.
Biochem. Biophys. Res. Commun., 273(2), 437-441 (2000).
脂質過酸化最終産物の病理生理学的研究として、文献18の続報であり、HNEが肝細胞においてシクロオキシゲナーゼ(COX)-2を選択的に誘導する作用を見出したものである。COXはアラキドン酸から種々のPG類の前駆体であるPGH2に変換する酵素であり、二つのアイソフォームが存在する。特に誘導型であるCOX-2は、増殖因子やサイトカインにより発現が調節され、細胞の増殖、運動性、接着、アポトーシス抑制などの多彩な生理作用に関与することが知られる。動物実験では、COX-2の炎症関連発がんへの関与が示唆され、COX-2選択的阻害剤による発がん予防や再発予防を目指した臨床応用に興味がもたれている。さらに、酸化ストレスが関与する肝障害などの病変においてPG合成が亢進することから、脂質過酸化代謝物によるCOX-2の誘導仮説が提唱されており、それを直接証明することに成功した最初の報文である。
(名古屋大学、京都大学、弘前大学との共同研究)
22. Novel nitric oxide and superoxide generation inhibitors, persenone A and B, from avocado fruit.
Kim, O.K., Murakami, A., Nakamura, Y., Takeda, N., Koshizumi, H., Ohigashi, H.
J. Agric. Food Chem., 48(5), 1557-1563 (2000).
文献12の続報であり、アボカドに含まれる一酸化窒素合成阻害/スーパーオキシド産生阻害物質の単離と構造決定に関する論文。アボカドは不飽和脂肪酸を中心に脂質が豊富であり、俗に「森のバター」とも呼ばれる。単離された活性物質も長鎖不飽和脂肪族アルコール誘導体であった。
筆頭著者は一年後輩の留学生で、その後ミネアポリスに移りポスドクで大活躍された。2007年に旦那さんの仕事の関係でイリノイ州へ異動されたが、再会する機会には恵まれず、残念であった。2009年秋、米国でアカポスを得られたそうな。今後の活躍をお祈りしています。
(京都大学、近畿大学、名城大学との共同研究)
21. Antitumor Prostaglandins as potential inducers of phase II detoxification enzymes: 15-Deoxy-delta(12,14)-prostaglandin J2-induced expression of glutathione S-transferases.
Kawamoto, Y., Nakamura, Y., Naito, Y., Torii, Y., Kumagai, T., Osawa, T., Ohigashi, H., Sato, K., Imagawa, M., Uchida, K.
J. Biol. Chem., 275(15), 11291-11299 (2000).
前著(文献20)と連動した企画であったが、現在では内因性求電子化合物として幅広く受入れられているプロスタグランジン(PG)J2類縁体(15d-PGJ2)であるが、この第二相解毒酵素誘導作用に関する論文であり、その後の研究の拠点となった。裏D論における予備的スクリーニングで見出されたGST発現誘導物質には、Michael反応受容体型の化合物も複数存在し、JシリーズのPGが有望な化合物群として評価していたので、筆頭著者と同等扱いにして頂いたが、脂質生化学に重点を置いていた名古屋大学の共同研究先で詳細に研究されることとなった。その後の15d-PGJ2の生理的意義に関する研究の発展は、内田先生の一連の論文を参照して頂きたい。
(名古屋大学、京都大学、弘前大学、大阪大学との共同研究)
20. Redox regulation of glutathione S-transferase induction by benzyl isothiocyanate: Correlation of enzyme induction with the formation of reactive oxygen intermediates.
Nakamura, Y., Ohigashi, H., Masuda, S., Murakami, A., Morimitsu, Y., Kawamoto, Y., Osawa, T., Imagawa, M., Uchida, K.
Cancer Res., 60(2), 219-225 (2000).
後に上梓する(文献24)と時間的には前後するが、記念すべきベンジルイソチオシアネート(BITC)に関する初掲載論文であり、裏D論の主要論文となるはずだった研究。BITCによるGSTP1の発現と細胞内レドックスの関与を示唆した。BITCはRL34細胞に処理後、速やかに細胞内グルタチオン(GSH)濃度を低下させ、それに応答して細胞内酸化ストレスも上昇させた。また、GSH濃度の薬理学的変動に対応して、GSTP1遺伝子発現が転写レベルで調節された。
データ量はフルペーパーに十分であったが、Advance in Briefでの掲載を目指したのは、トピックス性が問われるからである。概ね審査員からは好評であり、その時はあまり気に留めなかったが、今から思うと結構チャレンジングだったと感じる。ここまでの道程は結構長く、多くの人にご協力というのは名ばかりで多大なご迷惑をかけた成果である。無償で生化学実験手法のいろはをご教授頂いた増田先生の名前も入っている。当時、面白ければそれでいいというような研究生活を(大ボスや師匠のお陰で)送らせて頂いたことや、食品成分と細胞内シグナル伝達研究の最先端を走っていた現RutgersのTony Kong(この頃、KongがUICにいたとは最近まで気付かなかった、留学先の隣のビルだったようだ)や将来留学先のボスになる先生(深井先生)の論文を読みあさっていたことが思い出深い。
(京都大学、近畿大学、大阪大学、名古屋大学との共同研究)
19. A diacetylenic spiroketal enol ether epoxide, AL-1, from Artemisia lactiflora inhibits 12-O-tetradecanoyl-phorbol-13-acetate-induced tumor promotion possibly by suppression of oxidative stress.
Nakamura, Y., Kawamoto, N., Ohto, Y., Torikai, K., Murakami, A., Ohigashi, H.
Cancer Lett., 140(1-2), 37-46 (1999).
文献17の続編。タイ産ヨモギナの抗酸化物質AL-1のin vivoでの活性酸素産生阻害作用とマウス皮膚化学発がんの抑制効果を証明。この一連の研究から、炎症関連発がんの予防物質探索において、炎症性白血球の活性酸素種産生に対する阻害作用が一つの重要な指標となることの証明が完了した。
(京都大学、近畿大学との共同研究)
18. Activation of stress signaling pathways by the end product of lipid peroxidation.
Uchida, K., Shiraishi, M., Naito, Y., Torii, Y., Nakamura, Y., Osawa, T.
4-Hydroxy-2-nonenal is a potential inducer of intracellular peroxide production. J. Biol. Chem., 274(4), 2234-2242 (1999).
文献10の続編。HNEの普遍的なシグナル伝達に関する道標的論文で、引用数も多い。ラット肝細胞株RL34に対して、HNEは細胞内酸化ストレスを上昇させ、その結果mitogen-activated protein kinase(MAPK)及びAP-1の活性化を誘発することを見出した。HNE修飾タンパク質の免疫染色、H2DCF-DAアッセイを担当し、今後の研究においてもポイントとなる、求電子性化合物による細胞内peroxide量の上昇(これまでは活性酸素合成酵素の活性化や外因性活性酸素種によるperoxide量の上昇しか見ていなかった)を確認した点で意義深い。
名古屋にちょくちょく自腹で修行に出かけていた。
(名古屋大学、京都大学との共同研究)
17. Isolation and identification of acetylenic spiroketal enol ethers from Artemisia lactiflora as inhibitors of superoxide generation induced by a tumor promoter in differentiated HL-60 cells.
Nakamura, Y., Ohto, Y., Murakami, A., Jiwajinda, S., Ohigashi, H.
J. Agric. Food Chem., 46(12), 5031-5036 (1998).
分化HL-60細胞でのスーパーオキシド産生抑制を指標としたタイ国産食用植物のスクリーニングを行い、高活性を示したヨモギナから特徴的な構造を持つジアセチレンスピロケタールエノールエーテルエポキシド(AL-1)とその類縁体5種を単離同定した。立体配置を含めた構造の同定に多くの労力を時間を割いた長女の修論研究でもあるこの研究を通して、大東先生から教えて頂いたものは計り知れない(と理解するのには正直暫く時間がかかったが)。それまで生理活性評価に重点をおいてきて天然物の研究室出身者として肩身が狭かったが、少し楽になった気がする。
(京都大学、近畿大学、サセサート大学との共同研究)
16. Superoxide scavenging activity of rosmarinic acid from Perilla frutescens Britton var. acuta f. viridis.
Nakamura, Y., Ohto, Y., Murakami, A., Ohigashi, H.
J. Agric. Food Chem., 46(11), 4545-4550 (1998).
アオジソに0.1%いう高含有率で含まれるロズマリン酸をキサンチンオキシダーゼ系のスーパーオキシド消去物質として単離同定し、細胞系での抗酸化物質としての有効性を証明した。カフェ酸二量体であるロズマリン酸は二つのカテコール基を有し、これが活性発現の基本構造であることを構造活性相関より明らかにした。初めての弟子(長女、マウス皮膚二段階炎症モデルの導入にも貢献)の卒論研究は、あこがれの抗酸化物質研究をやりたい気持ちからこのテーマに。オーソドックスに和産野菜スクリーニングから活性物質の単離評価までを1年間で出来たのは長女の実力もさることながら幸運だった。
(京都大学、近畿大学との共同研究)
15. Suppression of tumor promoter-induced oxidative stress and inflammatory responses in mouse skin by a superoxide generation inhibitor 1'-acetoxychavicol acetate.
Nakamura, Y., Murakami, A., Ohto, Y., Torikai, K., Tanaka, T., Ohigashi, H.
Cancer Res., 58(21), 4832-4839 (1998).
化合物的には文献6、実験系的には13の続編(あくまでも論文が掲載された順を考慮すると)である。そもそもACAはいわゆるPKC活性化などの発がんプロモーションに関連する生化学的現象のほとんどに影響を与えず、(少なくともこの時点では)唯一活性酸素の産生阻害作用が見出され報告していたが、in vivoでの発がんへの寄与については不明であった。このことがマウス皮膚二段階炎症モデルの導入の大きなモチベーションとなり、本系の確立に大きく貢献した。ACAは、マウス皮膚でも白血球からの活性酸素産生を特異的に阻害し、過酸化脂質量も低減したことから、生体内で有効に抗酸化作用を発揮できることを明らかにした。その後、田中先生の協力を得て、炎症部位における活性酸素の産生はさらなる浮腫の形成、白血球の浸潤、さらには過形成を誘導し、炎症慢性化へのポジティブフィードバックループが形成されることを明らかにすることで、活性酸素産生阻害物質のがん予防効果における生物学的根拠を明確に提示することが出来た。
D論発表には間に合わなかったが、満を持して投稿できた自信作である。
(京都大学、近畿大学、金沢医科大学との共同研究)
14. Synthsis and biological activities of (-)-6-n-octyl-indolactam-V, a new potent analogue of the tumor promoter (-)-indolactam-V.
Nakagawa, Y., Irie, K., Nakamura, Y., Ohigashi, H., Hayashi, H.
Biosci. Biotechnol. Biochem., 62(8), 1568-1573, (1998).
ILVは、プロモーターであるテレオシジンの生理活性を担う最小基本構造であることは文献2でも述べていたが、ILVの生理活性がテレオシジンに比べて低い原因は、ILVには6位或いは7位に、立体的嵩高さが比較的小さいものの高い疎水性を付与するテルペン置換基が存在しないことを証明した。生物活性 (EBVアッセイ、分化HL-60細胞アッセイ)を担当。
(京都大学、大阪府立大学との共同研究)
13. Inhibitory effects of curcumin and tetrahydrocurcuminoids on the tumor promoter-induced reactive oxygen species generation in leukocytes in vitro and in vivo.
Nakamura, Y., Ohto, Y., Murakami, A., Osawa, T., Ohigashi, H.
Jpn. J. Cancer Res., 89(4), 361-370 (1998).
香辛料(ハーブ・スパイス)は、食品に香、味、色を賦与することで、嗜好性を豊かにする植物性食品であり、食欲の増進や消化吸収を助ける働きを示すものが多い。特にウコンは、最も典型的な香辛料の一つであるだけでなく、生薬として古くから利用されており、様々な薬効を有していることが知られている。ウコンは和名アキウコン(Curcuma longa L.)の根茎を指すが、ウコンを乾燥して作られ、アジア料理に不可欠なターメリックの方が、香辛料としては著名である。漢方薬としてのウコンは、止血剤や健胃剤として用いられ、その他、抗菌作用や抗炎症作用を有していることが古くから知られている。また、ウコンエキスのもつ肝機能改善効果は特に有名で、作用機構としては、主成分であるクルクミンが胆汁の分泌を活発にすることによって肝細胞を刺激し、肝臓全体の働きを良好に維持するものと考えられており、現在クルクミンのサプリメントはこの機能を期待したものが多い。
ウコンは、東南アジア諸国において化粧品としても利用されているが、経験的に抗炎症性の効能を活用し、紫外線による傷害や皮膚感染などを予防したものと想像される。実際、クルクミンは、皮膚化学発がんや紫外線による皮膚障害に対して、顕著な予防効果を示すことが証明されている。その抑制機構については、 炎症過程での酸化ストレスに対する防御作用が重要あると報告されている。さらに、経口摂取でのがん予防効果に関しても、前胃、十二指腸、大腸といった消化器系、胸部をはじめ、肝臓、肺、軟口蓋での発がん実験においても認められ、この標的臓器の多様性がクルクミンの食品機能成分としての魅力を引き立てている。
本論文では、クルクミン及びその生体内代謝物のひとつされるテトラヒドロクルクミンの白血球による活性酸素産生阻害作用をin vitro(分化HL-60細胞)、in vivo(マウス皮膚二段階炎症モデル)にて証明した。文献8、9で提唱した炎症性白血球による活性酸素産生が二段階のプロセスを経て誘導され、それぞれのプロセスを選択的に修飾する食品成分が存在することをin vivoで証明した。
このデータが転機となり、こちらの方が表D論テーマとなるD3の夏だった(1997年夏、もう一つのモチベーションが初めての海外脱出、滞在中の思い出は大リーグ観戦とダイアナ妃急逝)。本研究は、大澤先生から頂いたクルクミン類が冷凍庫に眠っており(機能性食品に関する特定領域研究での関係から)、モノ(full paperになるような仕事)にしなければいけないとの大ボスからのお達しが発端。その後のいろいろなことなどこの頃は全く想像できず。
(京都大学、近畿大学、名古屋大学との共同研究)
12. Screening of edible plants for nitric oxide generation inhibitory activities in RAW 264.7 cells.
Kim, O.K., Murakami, A., Nakamura Y., Ohigashi, H.
Cancer Lett., 125(1-2), 199-207 (1998).
マウスマクロファージ様RAW 264.7細胞のIFNγ/LPSによる一酸化窒素産生阻害活性を指標にして、日本産食用植物のスクリーニング(ランダム)を行った。見直してみるとアブラナ科等有望な野菜が多く興味深い。
(京都大学、近畿大学との共同研究)
11. Synthsis and biological activities of indolactone-V, the lactone analogue of the tumor promoter (-)-indolactam-V.
Nakagawa, Y., Irie, K., Nakamura, Y., Ohigashi, H., Hayashi, H.
Biosci. Biotechnol. Biochem., 61(8), 1415-1417 (1997).
文献2、7の続報。ILVの発がんプロモーション活性に重要なアミド基のラクトンアナログの合成と生物活性の評価。ラクトンは立体配座がtrans-sofaとなり不活性であった。EBVアッセイを担当。
(京都大学、大阪府立大学との共同研究)
10. Cellular response to the redox active lipid peroxidation products: Induction of glutathione S-transferase P by 4-hydroxy-2-nonenal.
Fukuda, A., Nakamura, Y., Ohigashi, H., Osawa, T., Uchida, K.
Biochem. Biophys. Res. Commun., 236(2), 505-509 (1997).
過酸化脂質最終産物で強力な求電子反応性を有する4-ヒドロキシ-2-ノネナール(HNE)のグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GSTP1)誘導作用。GSTP1の免疫染色を担当。内田先生との共同研究における初論文。この頃、様々な化合物を対象にGST誘導活性スクリーニングを行っていたが、博士課程内でまとまらずロスタイムに突入、裏D論テーマとなる。
(名古屋大学、京都大学との共同研究)
9. Auraptene, a citrus coumarin, inhibits 12-O-tetradecanoylphorbol-13-acetate-induced tumor promotion in ICR mouse skin possibly through suppression of superoxide generation in leukocytes.
Murakami, A., Kuki, W., Takahashi, Y., Yonei, H., Nakamura, Y., Ohto, Y., Ohigashi, H., Koshimizu, K.
Jpn. J. Cancer Res., 88(5), 443-452 (1997).
クマリン化合物オーラプテンの発がん抑制作用と活性酸素産生阻害作用の関与を明らかにした。このオーラプテンはナツミカン、ハッサク、グレープフルーツに多く、ミカン(温州)、オレンジ(バレンシア)、レモン、ライムには極めて少ない。分化HL-60細胞実験を担当し、初めてH2DCF-DAを用いた細胞内peroxide検出のデータを上梓した。オーラプテンはいわゆる浮腫(炎症)抑制作用がなく、活性酸素産生阻害作用を有したため、炎症部位では白血球の集積と活性化が異なるプロセスで起こることを想定し始める。
(近畿大学、和歌山県農産物加工研究所、京都大学との共同研究)
8. Inhibitory effect of pheophorbide a, a chlorophyll-related compound, on skin tumor promotion in ICR mouse.
Nakamura, Y., Murakami, A., Koshimizu, K., Ohigashi, H.
Cancer Lett., 108(2), 247-255 (1996).
文献4の続編。PPBaのマウス皮膚化学発がんのプロモーション過程での抑制作用を明らかにした。PPBaの酸化生成物10-OH-PPBa、銅イオンをキレートしたCu-PPBaを調製して、それぞれのマウス耳介浮腫形成抑制作用、分化HL-60細胞でのスーパーオキシド産生阻害作用、脂質過酸化抑制作用を評価し、構造活性相関を考察した。
文献4とともに修論データが中心だが、博士論文研究の礎となる、炎症性白血球からの活性酸素生成が発がんプロモーション過程に関与する仮説を提唱した。
(京都大学、近畿大学との共同研究)
7. Synthesis and biological activities of new conformationally restricted analogues of (-)-indolactam-V: Elucidation of the biologically active conformation of the tumor-promoting teleocidins.
Irie, K., Isaka, T., Iwata, Y., Yanai, Y., Nakamura, Y., Koizumi, F., Ohigashi, H., Wender, P.A., Satomi, Y., Nishino, H.
J. Am. Chem. Soc., 118(44), 10733-10743 (1996).
文献2の続編。新たなILVの活性型立体配座固定誘導体の合成と発がんプロモーション活性の詳細な評価(protein kinase C 調節領域への結合、EBウイルス早期抗原発現、細胞膜へのリン脂質の取込み)。インドラクタム内アミド結合のcis-twist型コンフォメーションの重要性をさらに支持した。バイオアッセイを担当(EBV活性化試験)。
(京都大学、スタンフォード大学、京都府立医大との共同研究)
6. 1'-Acetoxychavicol acetate, a superoxide anion generation inhibitor, potently inhibits tumor-promotion by 12-O-tetradecanoylphorbol-13-acetate in ICR mouse skin.
Murakami, A., Ohura, S., Nakamura, Y., Koshimizu, K., Ohigashi, H.
Oncology, 53(5), 386-391 (1996).
1´-アセトキシチャビコールアセテート(ACA)はタイ産ショウガ科植物のナンキョウ(タイのハーブ、トムヤンクンの風味を支えるハーブ4種の中の1つ、文献1でも高活性を示す)の根茎に含まれるフェニルプロパノイドであり、強力なEBV活性化抑制物質として単離されていた。本論文ではマウス皮膚化学発がんの強力な抑制効果を明らかにした。また、脂質過酸化、キサンチンオキシダーゼ及び分化HL-60細胞を用いたスーパーオキシド産生をそれぞれ抑制し、抗酸化作用の寄与も示唆した。各種in vitro抗酸化実験を担当。
(京都大学、近畿大学との共同研究)
5. Photocytotoxicity of water-soluble fullerene derivatives.
Irie, K., Nakamura, Y., Ohigashi, H., Tokuyama, H., Yamago, S., Nakamura, E.
Biosci. Biotechnol. Biochem., 60(8), 1359-1361 (1996).
新規水溶性フラーレンを合成し、光増感作用を検討したがPPBa(文献4)には及ばなかった。Bリンパ球における光細胞毒性での評価を担当。
(京都大学、京都大学工学部、東京大学との共同研究)
4. Identification of pheophorbide a and its related compounds as possible anti-tumor promoters in the leaves of Neptunia oleracea.
Nakamura, Y., Murakami, A., Koshimizu, K., Ohigashi, H.
Biosci. Biotechnol. Biochem., 60(6), 1028-1030 (1996).
文献1のスクリーニングで高活性を示したミズオジギソウから、フェオフォルバイドa(PPBa)とその関連化合物5種をEBV活性化抑制物質として単離した。PPBaはクロロフィル分解物であり、光増感作用が知られていたが、抗プロモーション作用への寄与を否定。
修論データを用いた初めての自著。修論を見ると、自分の人生を変えた師匠の叱咤(恐ろしい程静かで手短な言葉だった)と阪神大震災がセットで思い出される。
(京都大学、近畿大学との共同研究)
3. Glyceroglycolipids from Citrus hystrix, a traditional herb in Thailand, potently inhibit the tumor-promoting activity of 12-O-tetradecanoylphorbol-13-acetate in mouse skin.
Murakami, A., Nakamura, Y., Koshimizu, K., Ohigashi, H.
J. Agric. Food Chem., 43(10), 2779-2783 (1995).
文献1のスクリーニングで高活性を示したコブミカンの葉(タイのハーブ、トムヤンクンの風味を支えるハーブ4種の中の1つ)から、植物細胞膜に普遍的な成分であるグリセロ糖脂質をEBV活性化抑制物質として単離し、マウス皮膚発がん実験において、比較のα-リノレン酸よりも強力ながん予防効果が認められた。マウス耳介浮腫形成が抑制されたことから、アラキドン酸カスケード阻害の寄与が示唆された。発がん実験の訓練を兼ねて、週二回のマウスの世話と薬剤処理を手伝う。
(京都大学)
2. Synthesis and biological activities of new conformationally fixed analogues of (-)-indolactam-V, the core structure of tumor-promoting teleocidins.
Irie, K., Koizumi, F., Iwata, Y., Ishii, T., Yanai, Y., Nakamura, Y., Ohigashi, H., Wender, P.A.
Bioorg. Med. Chem. Lett., 5(5), 453-458 (1995).
インドラクタムV(ILV)は、放線菌由来の発がんプロモーターであるテレオシジンの生合成前駆体であり、生理活性を担う最小基本構造であることから、誘導体合成の鍵化合物と見なされている。
本論文ではILVの活性型立体配座固定誘導体を合成し、それらの発がんプロモーション活性(PKC調節領域への結合、EBウイルス早期抗原発現)を評価した。入江先生との共同研究で、主にバイオアッセイ(EBV活性化試験)を担当。
(京都大学、スタンフォード大学との共同研究)
1. Possible anti-tumor promoting properties of edible plants from Thailand, and identification of an active constituent, cardamonin, of Boesenbergia pandurata.
Murakami, A., Kondo, A., Nakamura, Y., Ohigashi, H., Koshimizu, K.
Biosci. Biotechnol. Biochem., 57(11), 1971-1973 (1993).
化学因子による発がん過程は複雑であるが、遺伝子の損傷過程であるイニシエーション、異常増殖に伴う腫瘍の顕在化過程であるプロモーション、そして腫瘍の転移、浸潤を招く悪性化過程のプログレッションと大きく3段階を経ると整理して理解されている。この古典的な発がん多段階説におけるプロモーション作用、即ち細胞増殖や過形成を誘導する天然生理活性物質を発がんプロモーターと呼ぶ。マウス皮膚発がんのプロモーターとしては、protein kinase C(PKC)活性化型とprotein phosphatase 2A(PP2A)阻害型(okadaic acidなど)に二分され、前者の代表例として、ハズ油由来フォルボール化合物のphorbol-12-myristate-13-acetate (PMA)や放線菌二次代謝産物のテレオシジン類が有名で、in vitroで多彩な生物活性を示す。主要な細胞内分子標的は前述のようにPKC(内因性リガンドはジアシルグリセロールであり、結合様式的に同様であるが、PMAの方が強力)とされ、下流に存在するAP-1依存的遺伝子発現の活性化剤として現在でも汎用されている。この多彩な生理活性を利用した簡便な短期評価法も様々であるが、一つにBリンパ球Raji細胞に潜在感染しているEBウイルス(EBV)の活性化があり、早期抗原の細胞膜表面への露出を指標として評価する。
本論文ではEBV活性化抑制活性を指標に、民間薬的効能が期待される40種のタイ産食用野菜をスクリーニングし、有意な活性を示したショウガ科オオバンガジュツからカルダモニンを主要活性物質として単離した。スクリーニング(卒論データ)を担当。当時地下にあったクリーンベンチと顕微鏡、免疫染色した細胞を数える実験が大変で居眠りしていたのを師匠に見つかりお目玉食らった。
(京都大学、香川大学との共同研究)